2020年10月14日 | 健康のこと -Health-
#健康 #ライフスタイル #今できること #健康経営 #会社経営
健康増進法の一部が改正され、2020年4月から職場でも「受動喫煙防止」の取り組みが義務化されました。しかし、特に中小企業はいま、新型コロナウイルス感染症対策や同じく4月から義務化された長時間労働を是正する取り組みの実施など、やるべきことが山積している状態でもあります。「受動喫煙防止のことまで手が回らない」という経営者も少なくないかもしれません。
そこで、本稿では、アクサ生命での取り組みを受動喫煙防止の参考例としてご紹介します。また、受動喫煙防止の推進をきっかけに「健康経営※」に取り組むことの価値やその方法のほか、実際に取り組む上で押さえておきたい厚生労働省のガイドラインの概要などもお伝えします。
※「健康経営」は特定非営利活動法人 健康経営研究会の登録商標です。
受動喫煙防止法に対応する必要がある一方で、「取り組みを始めたからといって、喫煙する従業員に急にそれを控えるように言うと、関係性がギクシャクしてしまうのではないかと心配だ」、あるいは「急に喫煙所をなくしたり、タバコを吸わないように社内ルールを決めても、どこまで従ってくれるか分からない」といった意見も出てきそうです。
また、非喫煙者と喫煙者の“意見の衝突や摩擦”が起きやすくなることで、仕事に支障が出ないか懸念する向きもあるかもしれません。特に、中小企業や小規模事業者の場合、お互いに顔が見える距離にいるだけに、このような問題は厄介だと考えられます。
私たちアクサ生命ももちろん受動喫煙防止法への対応を行なっており、現在では「就業規則として、就業時間は喫煙禁止」と定めています。しかし、これは急に決まったものではありません。ここに至るまで、2018年からじっくりゆっくりと時間をかけて下準備をしてきました。その流れをまずはご紹介しましょう。
「健康経営優良法人・大規模法人部門(ホワイト500)」に選定されているアクサ生命では、2018年、健康経営の推進の一環として「行動変容アンケート」を実施しました。ここで明らかになった健康課題のなかでも最も懸念されることのひとつが、「喫煙率が高いこと」だったのです。特に、当時は役員の喫煙率も高く、「タバコを吸っていて何が悪いのか?」という認識であることも分かりました。
このことは、「従業員などの健康管理を経営的視点で考え戦略的に実践する『健康経営』の推進を掲げている会社として、何とかしなければいけない!」という強い意識をより高め、人事部門を中心に社内のカルチャーを変えるべく取り組みを始める原動力になりました。
前述の経緯もあり、2019年1月に制定した「健康管理ガイドライン」では、喫煙について、「社内の喫煙率20%を目指す」と設定。受動喫煙防止対策につながる取り組みをスタートさせました。
具体的な取り組みとしてまずは、個人の強い意志では卒煙は難しい、という発想のもと、最初は、ニコチンガムやパッチを使用した一般的な禁煙サポートを実施しました。それにあたり、禁煙を希望する社員と応援するサポーター制度を作り、本人だけではなく周囲も協力しながら禁煙活動を進めていくようにしました。また、禁煙を達成した場合には、その費用の一部をアクサ生命健康保険組合が負担することにもしました。
しかし、参加者は思いのほか伸びず、あらたに内服薬を使用した「オンライン禁煙プログラム(56,000円/一人)」を導入し、健保組合が期間限定で無料提供することにしました。
また、同時期から同年7月までは、就業時間内の禁煙にチャレンジする日を設定。8月から12月まではチャレンジする日を段階的に増やすなどしていきました。
同時に、統括産業医の監修のもと、喫煙のリスク等を啓蒙するメールマガジンを社内に配信。「まずはメールを開封して読んでくれるように、『大事なことは喫煙所では決まりません!』など、キャッチーなタイトルを心がけるなど工夫しました」と、担当部署は振り返ります。
さらに、部長以上が集まる会議で喫煙率の変化を発表するなどし、社内に「タバコを吸っているのは良いことじゃない」という雰囲気を醸成することで、自発的に行動を変えるように推し進めていきました。これによって、卒煙できた役員も!
加えて、禁煙成功者には、禁煙のきっかけや方法などを動画に収め、社内で共有しました。
このような内容は、厚生労働省が示す「職場における受動喫煙防止のためのガイドライン」の (ア)推進計画の策定、(イ)担当部署の指定、(ウ)労働者の健康管理等、(オ)意識の高揚及び情報の収集・提供、を具体化したことだと言えます。
参考リンク
厚生労働省「職場における受動喫煙防止のためのガイドライン」
厚生労働省「なくそう!望まない受動喫煙」Webサイト
受動喫煙防止の取り組みによってタバコ休憩が減れば生産性が向上する、といった話はたびたび聞かれます。しかし、いまのところアクサ生命内では明らかな変化は見出しづらいところです。しかし、「従業員全体の働きやすさは明らかに向上した」とは言えそうです。
例えば、2019年に行なったストレスチェックのアンケートでは、「いままで我慢してきたけれど、エレベーターで喫煙したひとと一緒になるとニオイが気になる、と言えるようになった」との声や、卒煙したひとからは「チームメンバーの反応が非常に良くなった」との声も。
人間は社会的な生き物なので、周囲の反応を気にするし、気になるもの。たばこに関する社内アンケートからは、さまざまな取り組みを通じて、「いままで遠慮して言えなかったことが言える風通しの良い組織になったことで、喫煙習慣のある従業員に『やっぱり変わらなきゃ」という気持ちを芽生えさせ、そこから卒煙に向けたアクションに結びつく道筋がつけられた」と読み取れる内容が見えてきました。
また、そうした組織だからこそ円滑なチームワークの基礎がより強くなった、と言えるかもしれません。
一方、取り組み当初は、「禁煙にチャレンジする日に喫煙所に行くひとを取り締まらないのか?」という声があったり、就業規則に組み入れる際には「罰則規定はあるのか?」といった意見も出ました。
しかし、議論の結果、「基本的には個人の意思に任せ、禁煙を促していくようにする方が良い」として、罰則等は設けないことにしました。この点は、企業理念や方針などによって企業ごとに判断が分かれるところでしょう。いずれの場合にしても、独断的に決めるのではなく、決定までのプロセスでそれぞれの不満をしっかり丁寧な議論で解消していくことが重要です。
前述の通り、アクサ生命では「就業規則で就業時間内の禁煙を定めるけれど、罰則規定は設けない」という決定をしました。それは、あくまでも喫煙習慣のある従業員に内発的に取り組んでもらわないと意味がない、と考えているからです。また、禁煙したからといって必ず健康になるとは示しづらいという科学的な課題もあります。
一方で、タバコを吸い続けることは言うまでもなく身体に良いことではありません。「このようなジレンマがあるからこそ、正しく役に立つ情報や価値のある情報を発信することで個々人に考える機会を持ってもらうことが大切」と考え、担当部署は今後も発信を続けていく、としています。
他方、自社だけでなく多くの企業の「健康経営」をサポートしてきた経験から、企業がこれに取り組んで得られるメリットも見えてきました。すぐに効果が現れる一例に挙げられるのは、採用時の優位性です。最近では、「喫煙者は採用しない」と決めている会社も出始めているほどです。
ただし、ここでは注意も必要です。
「健康経営に関心のある経営者のなかには、禁煙について興味を持つひとが多いのですが、いきなり従業員に対して禁煙するように指示すると社内の反発が起きやすいものです。その結果、従業員の健康を育む一連の取り組み全体ができなくなるおそれも出てきます」と、健康経営の担当部署はアドバイスしています。
もし実践するならば、受動喫煙防止対策の一環として分煙から。そして、喫煙所を少し遠くするなどして環境を変えていくといった工夫を重ねていく粘り強さが求められます。
また、事業所の環境によっては分煙もすぐには着手しづらいケースも考えられます。実際にアクサ生命でも、大小合わせて国内700拠点に調査を実施したところ、「分煙が難しい」とレポートしてきた事業所が過去にはありました。そうした場所では、「なぜ出来ないのか!?」と考えるのではなく、まずは自分たちができることに取り組むことが大切です。
中小企業の経営者や担当者のなかには、「大企業なら受動喫煙防止対策に組織的に取り組めるだろうけれど、自分たちは難しそうだ」と考える向きもあるかもしれません。
確かに、中小企業の場合、経営者が喫煙者だったりすると取り組みが進められないところもあるようです。一方で、「実は前から禁煙したかったんだ」という経営者が、「卒煙したいと思っていたから、これを機にチャレンジする。みんなで見守ってサポートしてほしい! 誰かチャレンジしたいひとは一緒に頑張ろう」と、率先して取り組みを始めたケースもあります。
実際のところ、タバコの害を訴えても「そろそろ卒煙しないと」と考えているひとの背中を押すことにはなるかもしれませんが、「タバコがないと!」というひとに行動変容を促すことは難しいものです。
最も有効なやり方は、やはり、環境を徐々に変えていくこと。先に紹介したアクサ生命の取り組みのように、分煙するにしても、そのスペースを遠めの場所に設置するなどして吸いづらい環境をつくるのもひとつの手でしょうし、周囲の「タバコの匂いが気になる」といった声がこれまでより聞こえるようにするのもいいかもしれません。また、卒煙に向けて行動変容できそうなひとをサポートし、社内に卒煙のムーブメントを起こしていくことも有効でしょう。
このように、受動喫煙防止対策から卒煙を促していくことは、実はお金やリソースを必ずしも必要とするわけではないのです。
それどころか、いかに旗振りするかが大事だとするなら、経営者と従業員の距離が近い中小企業の方が取り組みやすい面もあるかもしれません。経営者の取り組む姿勢が「自分たちのこと、会社の発展のことを考えてやってくれるんだ」と従業員に思ってもらえるだけの信頼関係を築けていたなら、想像以上にスムーズに進められるとも考えられます。
たとえ「いままで、従業員の健康について考えてはきたけれど、口に出したり態度に示したりしてこなかったな」という場合でも、これを機会にそのことを従業員に伝えていくことで、強い絆が生まれると期待できるでしょう。
「なんだか気恥ずかしいな」とか「どう言って進めればいいのかな?」という経営者の皆さまに、アクサ生命の健康経営アドバイザー*もサポートを続けています。
*健康経営アドバイザーとは:健康経営の必要性を伝え、実施へのきっかけを作る人材を育成するための研修プログラムを修了した存在です。アクサ生命の健康経営アドバイザーは、企業さまの持続的な発展と経営者・従業員のみなさまの充実した人生を豊富なサービスでサポートしています。
ここまで読み進め、「まずは自分たちができる範囲で受動喫煙防止法の対応と社内の卒煙運動を考え、始めてみよう」と思い始めた方もいらっしゃるかもしれません。そこで、改めて「受動喫煙防止法」の概要と厚生労働省が発表しているガイドラインについて把握しておきましょう。
受動喫煙について、特に事業所では、健康増進法の「国民の健康の向上を目的として、多数の者が利用する施設等の管理権原者等に、当該多数の者の望まない受動喫煙を防止するための措置義務を課す」という点。そして、労働安全衛生法の「職場における労働者の安全と健康の保護を目的として、事業者に、屋内における当該労働者の受動喫煙を防止するための措置について努力義務を課すものである」という点とを掛け合わせて考え、対応していく必要がある、と捉えられます。
具体的には、健康増進法と労働安全衛生法の2つに則り推進していくことになります。
① 組織的に取り組むべく、衛生委員会や安全衛生委員会等を通じ、従業員の受動喫煙防止対策についての意識・意見を十分に把握し、事業場の実情を把握した上で、各々の事業場における適切な措置を決定する。
② オフィスや事業所で働くひとの意識や行動が特に重要であるため、従業員は事業者が決定した措置や基本方針を理解しつつ、衛生委員会等の代表者を通じて、必要な対策について積極的に意見を述べる。
また、推進にあたって、厚生労働省は「職場における受動喫煙防止のためのガイドライン」を示しています。特に「3 組織的対策」はどのような業種にも当てはまる取り組むべき事柄が整理されているので、参考になるでしょう。
参考リンク
厚生労働省「職場における受動喫煙防止のためのガイドライン」
厚生労働省「なくそう!望まない受動喫煙」Webサイト
ただ、なかには「ルール化されたこともあり、取り組みを進めていかなくてはいけないことは理解している。けれど、設備等の対応コストもかかりそうだし、やっぱり着手しづらい」といった意見もあるかもしれません。そうしたこともあり、厚生労働省は中小企業向けに各種支援事業を用意しています。
ただし、業種や設置したいと考えている喫煙専用室等の設備などの内容によって助成が受けられるかどうかは異なります。気になる方は、厚生労働省の「受動喫煙防止対策助成金 職場の受動喫煙防止対策に関する各種支援事業(財政的支援)」というWEBページを参考にしてみてください。
参考リンク
厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「すすめていますか? たばこの煙から働く人を守る職場づくり」
現在、会社のあり方は過渡期にあると言えます。特に、新型コロナウイルス感染症の拡大は社会に大きな影響を与えており、会社に所属しない生き方や会社を頼らない仕事の仕方、といった言葉が耳目を集めているのは周知の通りです。
しかし、一方で、在宅テレワーク等の経験は「一緒に働くことの楽しさ、安心感」といったいままで当たり前だったことの価値を再確認させてくれました。
「会社はひとつの共同体。社員は家族みたいな関係だ」という“古臭い”とも言われる関係性が、心理的安心感をもたらし、コミュニケーションを円滑にして新しい発想などを生み出すといった会社の持続的発展の源泉になるとの考え方も注目されています。
前述のような考え方から、受動喫煙防止対策の推進をはじめとした健康経営を考えると、「健康経営とは、企業の成長力向上のために従業員の健康増進に取り組むこと」と捉える向きがあるかもしれません。また、健康経営を語る際、社会保障・医療費削減といったメリットを示す場面も見られます。
しかし、アクサ生命ではそうした考え方は、「健康経営がもたらす価値を正しく表現できていない」と考えています。
当然ながら、会社で働く従業員はそれぞれの家庭があり、一人ひとりが唯一の人生を歩む存在です。そんななかでご縁があって従業員として一緒に働いているとするなら、そのひとの健康は、家庭と会社とのコラボレーションで成立すると言えるでしょう。この家族の健康や健やかさを支え、QOL(クオリティ・オブ・ライフ、生活の質)を保ち高めることを主眼とした取り組みこそ、健康経営がもたらす最大の価値なのです。
そうした取り組みを多くの企業が行なえば、地域全体に健康経営によって健やかな状態のひとが増え、社会全体のQOLが高まるとも見通されます。その第一歩が、御社が取り組む受動喫煙防止対策であり、健康経営の推進だとするなら、小さな取り組みはとても大きな一歩になると考えられるのではないでしょうか?
健康経営について、さらに詳しくご紹介します。
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