2020年8月26日 | 健康のこと -Health-
人生100年をどのように歩んでいくかはひとぞれぞれ。ですが、せっかくこれまで以上に寿命が伸び、多くの体験ができるようになるのなら、「いろいろあったけれど、楽しく、素晴らしいものだった」と思えるようにしたいものですね。
幸せのカタチはさまざまに挙げられますが、「おいしくものを食べること」は、多くの方が真っ先に思い浮かべる幸せのカタチではないでしょうか?そう考えると、人生100年時代を自分が納得できるものにするべく、「歯とお口の健康」に着目するのは大きな意義があると言えそうです。
そこで、ライオン株式会社オーラルケアマイスター平野正徳氏(学術博士・健康予防管理専門士)のお話を交えながら、気を付けたい歯周病や虫歯のこと、歯の健康が全身に及ぼす影響のほか、より満足度の高い人生100年時代を過ごすためのオーラルケアの心得についてお聞きしました。
最初に、ライオン株式会社オーラルケアマイスター平野氏は、「歯とお口の役割」について、次のように解説してくれました。
平野氏:「食べる・話す・笑う」の3大機能を担う歯やお口は、日常の楽しみのほとんどを司っていると言えます。もし歯やお口にトラブルを抱えてしまうと、おいしくモノを食べられなかったり、楽しく会話ができなかったり、素敵な笑顔が作れない、といったことから、何気ない瞬間にちょっと後ろ向きな気持ちになってしまうことも想像できます。
とても重要な役割を果たしている歯とお口なのですが、あまりに身近な存在であるため、その大切さは「失わないと気付けない」とも言えるのです。
さらに、歯やお口の健康が損なわれると、全身の健康にも大きく影響すると分かっています。
例えば、歯の本数や咀嚼力(そしゃく力、噛む力)といった口腔機能が衰えれば、バランス感覚に問題が生じて転倒リスクが高まったり、認知症のリスクも高まるとされています。また、身体的機能や認知機能が低下する「フレイル(虚弱)」とも深い関係があるとされています。他方、虫歯や歯周病といった口腔トラブルは、歯周病菌やその毒素が血液の中に入って体内に運ばれ、全身の病気を引き起こすリスクファクターになり、脳卒中や生活習慣病、誤嚥性肺炎や早産といったリスクに結びつくと指摘されています。
このようなことから、「歯の健康は全身の健康の入り口でもある」と言えるのです。
幸いなことに、若いうちは歯周病や歯の欠損のような歯やお口に大きなトラブルを抱えることがない場合も多いでしょう。そのため、日々の歯磨きさえ丁寧にしておけばいまのうちは十分だ、と考えるひとがほとんどかもしれません。
しかし、人生がこれまで以上に長くなった今日において、日々のオーラルケアによって得られるメリットは、私たちが思っている以上に大きく、長く続くと言えそうです。
平野氏:歯は人間の組織なので、虫歯や歯周病といったトラブルを避けて十分にケアしていれば、歯の持ち主(本人)が死ぬまで使えるものです。しかし、実際は、高齢になって歯を失ってしまうひともいます。このことについて、「歯の寿命が過ぎてしまったから」と考えるひともいるようですが、それは誤解です。
歯を失うおもな原因である虫歯や歯周病といった歯やお口のトラブルの背景には、生活習慣、特に食生活や不摂生な生活などが挙げられます。また、歯ぎしり・食いしばりといったクセ(口腔習癖)もトラブルの原因になると分かっています。
最近は、入れ歯やインプラントといった義歯の選択肢も広がっていますが、歯はとても繊細で複雑な存在であるため、やはり自分の歯を使い続ける方がQOL(生活の質)は高いと考えられます。
「おいしさを感じる」ということを例に挙げて、なぜ自分の歯の方がQOLがより高いかを考えてみましょう。まず、おいしさは、モノを噛んで舌で味を感じて飲み込む動作からだけでなく、誰と食べるか、何を食べるか、どこで食べるか、その雰囲気はどのようなものか、など、さまざまな感覚を通して感じるというのはご存知の通りです。
それに加え、あまり知られていませんが、噛みごたえや質感、温度などは、歯の根っこの部分を覆う「歯根膜(しこんまく)」から顎の神経を経て脳に伝わり感じ取ります。義歯ではこれができなくなるため、今まで通りのおいしさを感じづらくなる、と言うわけです。
また、お友達やご家族と一緒に素敵なレストランに行ったときに、「義歯の間に物が詰まると痛くてつい表情が曇ってしまう。それを誰かに知られるのは…」とか、旅行先でお休み前に義歯を外すのは恥ずかしい、といった気持ちから、外出を尻込みしたり、「心から楽しめないから」と、出不精になったり、ということも、QOLを低下させる要因に挙げられるでしょう。
さらに、人生100年時代といった文脈でご紹介するなら、認知症の方のQOLと歯の本数についても関連性が分かってきています。先ほど、口腔トラブルは認知症のリスクが高まる、とお伝えしましたが、介護の現場では、「胃ろう(胃に直接栄養を送ること)をすると症状が進行しやすくなる」と、以前から知られていたそうです。一方で、義歯を利用して自分の口から食べられるようになると、生き生きと元気になることも知られていたと言います。
(出典:小野塚實『噛む力で脳を守る』健康と良い友だち社、2011年)
「食の満足度および歯科保健行動と現在歯数の関連について(8020推進財団 指定研究事業報告2007)」によると、「食事が『とてもおいしい・おいしい』と感じているひとは、平均で約20本の歯がある(調査人数 1518人(55~75歳))」との報告も出ています。
これらのことから、歯がなくなった状態でいるよりも義歯の方が、義歯よりも自分の歯の方が、おいしさや充実感、満足度を感じやすい、といったことが分かります。日々の生活のうるおいや充実は、心と体の健康の源とも言えます。そうした意味でも、「歯の健康は全身の健康の入り口でもある」というわけです。
ここまでで、虫歯や歯周病といった歯やお口のトラブルに対処しておくことは、充実した人生100年を支えてくれる、ということが分かりました。それを受け、「いますぐにでも自分の歯磨き習慣をより良いものにしたい!」と思い始めたひともいらっしゃることでしょう。では、自分でできる正しいオーラルケアのコツはあるのでしょうか?
平野氏:総論として、オーラルケアは「子どものころや若いころは虫歯ケア、歳を取ってきたら歯周病ケアが大事」と言われてきましたが、最近では随分と事情が変わってきています。
例えば、柔らかいものを食べる食習慣が一般化したことで、歯に食べかすがくっついたり唾液量が少なくなったことから、小中学生でも歯周病(歯肉炎)が増えている一方、歯茎が衰えて落ちくぼむことで歯の根面が表出し、大人でも虫歯(大人虫歯:歯の根元のむし歯)になるひとが出てきています。
また、オーラルケアは大切ですが、妊娠中にツワリがひどく歯ブラシを口に入れるのが大変なひともいらっしゃいますよね。この場合は、マウスウォッシュでケアするなどの状況に合わせたケアの仕方を考える必要があります。もし病気治療中の場合は、全身の状態が平時とは変わっているので、医師や歯科医師の指導に従うのが一番です。
加えて、歯並びなどお口の状態によって、「念入りに磨くべき部分」や「磨き方に工夫が必要な部分」はひとによってまったく異なるので、「これさえやっておけば良い」と言えるものではないのです。これらのことから、年齢に合わせたオーラルケアの方法があるわけではなく、自分に合ったオーラルケアを行なう必要があると言えます。
この後に詳しくご紹介しますが、自分に合ったオーラルケアの方法を身に付けるためにも、歯科医師による診察と指導を定期的に受けておくことが大切です。プロによるプロケアと自分で行なうセルフケアの両輪を上手に回して、歯周病や虫歯を未然に防ぐ「予防歯科」に努めることが、歯とお口の健康を保つベストな方法だと考えます。
お口の中の状態は一人ひとり異なり、知らないうちにトラブルが起こっていることも考えられるとなると、自己流やネットの情報だけを頼りにした歯磨き方法やセルフケアは、自分にとって十分な方法だとは言えないと理解できます。
しかし、ライフステージによって、「おうちでオーラルケアする際の心構え」は考えられる、と平野氏。次のように歯ブラシや歯磨き粉の選び方などについて解説してくださいました。
●歯ブラシ、歯磨き粉の選び方
大人の場合
Step1:目的で絞り込む
歯周病ケアをしたいのか、歯茎を健康に保ちたいのか、歯の汚れを目立たなくしたいのか、など、ご自身の目的に合った歯ブラシ・歯磨き粉をパッケージの説明を参考に絞り込む。
Step2:自分の好みで選ぶ
確実に毎日の歯磨き習慣を続けるためにも、歯磨き粉なら味、歯ブラシならあたり心地や持ちやすさ、などで選ぶ。
子どもの場合
Step1:歯ブラシ選びは子どもの成長(年齢)を基準に絞り込む
発達途上にいる子どもたちは、口の中の状態や顎のかたちがすぐに変わるので、メーカーはそれを考慮して製品を提案している。●歳用、というパッケージ表記を参考に、安全に配慮された歯ブラシ(怪我防止のための曲がるハンドルetc)を絞り込む。
Step2:最後は子どもに選んでもらう
これからの人生に不可欠な歯磨き習慣をこの時期に身に付けられるよう促すことが大事。(大人は仕上げとチェックに徹する)そのためにも、好きなキャラクターのものを選ばせてあげるのが一番。好きなものを使って、歯磨きモチベーションUPをはかろう。
☆さらに詳しくは、「ハブラシの選び方~おさえたい3つのポイント~」へ
●年代によって歯磨きの際に心がけるべきポイント
オーラルケアの内容は年齢ではなく、お口の中の状態によって変える必要がありますが、年代によって、心がけるべきポイントはいくつか挙げられるとのこと。平野氏は、次のようにアドバイスしてくれました。
10代後半:歯磨き習慣のキープ
「歯を磨きなさい!」と大人から注意されるためか、近年、小中学生の虫歯は1本以下に抑えられています。しかし、高校生や大学生になると親の目が行き届かなくなったり、夜食を食べたあとにそのまま眠ってしまうなど、歯磨きをサボってしまうことも…。小中学校で身に付けた歯磨き習慣を継続させて、虫歯ゼロを実現しましょう!
20~30代:トラブルがなくても定期的に歯科健診へ
若いがゆえに、いろんなことを頑張れるのがこの年代。少しくらい歯に違和感があっても放置してしまいがちでもあります。目に見える範囲でトラブルがなかったり、ご自身が必要性を感じなかったとしても、20代から歯茎の衰えは始まっています。40代以降のためにも、引き続きオーラルケアは怠らず、定期的に歯科健診を受けておきましょう。
40~50代:お口の中の環境変化にご注意を!
歯茎下がり(歯が伸びたように見える)やドライマウスなど、大人ならではの口内環境の変化が起きるのがこの年代。歯茎下がりによる根面う蝕(大人虫歯)発生のリスクやドライマウスによる口臭など、口腔トラブルを自覚しやすくなる年代でもあります。定期的な歯科健診を習慣にしましょう。
60代~:いまある歯は絶対抜かないぞ!という強い意志を
そろそろ義歯を使うひとも出てくるのがこの年代。歯周病による歯の喪失の場合は、その隣や周辺の歯も炎症を起こしているおそれがあるので、ケアを十分に。「もう絶対に抜かないぞ!」という強い気持ちで、プロケアとセルフケアを続けていきましょう。
先述の「年代別、歯磨きの際に心がけるべきポイント」に加え、平野氏は「おうちでのオーラルケアがきちんとできているかのチェック方法」として、歯磨き後に舌で歯を触ってみて、ザラザラしていたり、違和感があったりしたら磨けていないおそれがあることや、たまには、歯垢染色液で染め出して自分の磨けていない場所を確認する、といったテクニックを教えてくれました。そうした上で、やはり歯科医師にケアしてもらうことの重要性について、次のようにアドバイスを続けます。
平野氏:自分でチェックできるのは目で見える、舌で触れる部分だけ。ついてしまった歯石は歯磨きでは落とせませんし、歯周ポケットの中まで掃除するといったことはセルフケアでは対処できません。お口の中の状態は日々変化しているし、自分ではチェックしきれないので、定期的に歯科医院でチェックしてもらい、状況に応じた対処と、その時々に合った正しいオーラルケアをレクチャーしてもらうことが重要です。これが、人生100年時代により長く自分の歯を保つ基礎になるでしょう。
☆さらに詳しくは、「生涯を通じて健康な歯でいるために『予防歯科』をはじめましょう」へ
「痛いところもないのに歯医者に行きづらい」という声も聞かれますが、「歯のクリーニングをお願いしたい」「口の中の状態を念のため確認したい」などの理由でクリニックを訪れても歯科医師のみなさんはしっかり丁寧に診てくれます。
大切なのは予防歯科の考え方で、歯茎から血が出た、歯がしみる、歯にものが挟まりやすくなった、歯が長く見えるようになった(歯茎が下がってきた)、口臭がきつくなった、といった明らかな異常や違和感だけでなく、「しばらく歯科医院に行っていないから」ということであれば、チェックのために歯科医院を訪れてみるのをおすすめします。
治療の必要を感じていなかったとしても、歯科医院でプロにクリーニングしてもらうとお口の中がスッキリしてとても気持ちが良いものです。
また、「歯とお口のリフレッシュのために」と、3~4ヶ月に1回くらい通っていれば、かかりつけ医になってほしいと思う先生が見つかるはずです。かかりつけ医に定期的に診てもらえるようになれば、よりきめ細かいアドバイスも受けられるでしょうし、小さな変化に気付いてもらいやすくなると期待できます。
最近は、お口の状態に合わせて一人ひとりに合ったケアの方法を伝えるべく、唾液検査の結果を基に、自分に合った方法を歯科医師からアドバイスを受けられるようにもなっています。検査の結果はごく短時間で出てくるので、その日のうちに確認することもでき、「忙しくて結果を聞きに行けない」という心配もほとんどありません。
これまで以上に新しいことや知らないことを体験する機会が増える人生100年時代。そのなかには、望まないこともあるかもしれません。その一例が「自然災害による避難生活」でしょう。そんな時に備えて、防災袋にマウスウォッシュを常備してほしい、と平野氏。
加えて、「ライオンでは、昼休みに歯を磨くのが当たり前の光景になっていますが、『職場で自分だけ歯を磨くのはちょっと恥ずかしい』というひとも多いと聞きます。しかし、環境が整っているなら、みなさんにもぜひ『食べたら磨く!もしくは、すすぐ』を習慣にしてもらいたいです。ぜひ周りのひとと連れ立って歯磨きをして、自分の歯で人生100年を過ごせるよう頑張りましょう!」とおっしゃっていました。
日々の「食べる・話す・笑う」を人生100年にわたって続けるためにも、これを機会にもう一度、ご自身のオーラルケアを見直してみませんか?
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【取材協力】
ライオン株式会社「Lidea」
アクサ生命は、まず「がんに罹患しない」ためのサポートを、もしもがんに罹患したとしても「早期発見と最適な治療方法の選択」「治療と生活の両立」のサポートをいたします。
あなたの「夢」を叶え、人生100年時代を豊かにするためのプランを一緒に考えませんか。
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