2019年8月21日 | 健康のこと -Health-
認知症の発症を遅らせたり、進行を緩やかにするにはどうすればいいのか?もし認知症を発症したとしても、自分らしく、住み慣れた地域で共生し続ける社会は、どうすれば実現できるのか――。
人生100年時代において、これらは避けては通れない課題でしょう。
そうした現状を踏まえ、2019年6月18日に取りまとめられたのが「認知症施策推進大綱」です。各種メディアでも取り上げられたので、「認知症について話題になっているな」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。
・厚生労働省 認知症施策推進大綱【本文】
・厚生労働省 認知症施策推進大綱【概要】
ですが、そもそも私たちは「認知症」や認知症の方が日々感じていることなどについて、どのくらい知っているのでしょうか?共生していくには、まず、そうしたことを知っておく必要があるはずです。
そこで、本稿では「認知症に関する基礎知識」を紐解いていきます。
まずは、認知症とはどのような症状なのか見てみましょう。ガイドラインでは、次のように定義されています。
「認知症とは、一度正常に発達した認知機能が後天的な脳の障害によって低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態で、それが意識障害のない時にみられます。(「認知症疾患治療ガイドライン」作成合同委員会(編):認知症疾患治療ガイドライン2010,医学書院,東京,2011)」
「認知症」と聞くと、「そういう病気なのだ」と思いがちですが、実際は、中枢神経変性疾患や脳腫瘍、アルコール中毒など様々な原因が存在します。原因疾患(原因となる病気)が多様であるため、認知症の症状もまた多様です。認知症の原因疾患は、いま分かっているだけでもなんと70種類もの分類がなされているとのこと。医師によっては「どの認知症の方の症状も、ほかの方と同じではない」と言うほどです。
そんな中でも、発症例が多いタイプとされ「四大認知症」と呼ばれるのが、①アルツハイマー型認知症 ②脳血管性認知症 ③レビー小体型認知症 ④前頭側頭型認知症です。
それぞれの特徴は、次のようにまとめられます。
①アルツハイマー型認知症
よく見られる症状
②脳血管性認知症
よく見られる症状
③レビー小体型認知症
よく見られる症状
④前頭側頭型認知症
よく見られる症状
認知症のことが世間に取り上げられ始めた頃、私たちはこの症状に対して理解が浅く「徘徊や妄想、ひどい言葉をつかったり、暴力的になることもある」など、家族や介護を行なうひとを振り回すような大変な病気だ、という偏った印象を持っていたかもしれません。
しかし、研究が進み、情報の精度も高まってきたことで、「過度に心配したり、特別扱いし過ぎなくてもいい」と分かるようになってきました。それどころか、認知症でありながら電車やバスを乗り継いで通勤をし、長く職場で活躍している方もいらっしゃるほどです。
ただ、やはり認知症の方にとっては、社会とのつながりを作ったり、溶け込もうとしたりする際に強く不安を感じることも多いのだそうです。特に問題になりやすいのが、認知症の「中核症状」です。
中核症状とは、脳の神経細胞が壊れることでその細胞が担っていた機能が失われたために生じる症状で、記憶障害や理解判断力の障害、実行機能の障害、見当識(けんとうしき)障害などが挙げられます。中でも、見当識障害は耳慣れない言葉でしょう。これは、「ここはどこか」「いまは何時か?」といった現状を把握できない状態を指します。
こうした障害は、認知症の方々が外出したり、やりたいことにチャレンジする際のハードルになるものです。しかし、周囲がそれを理解した上でサポートできれば、そのハードルは低くなるでしょう。そのような関係性を築くことが、共生の具体的な姿ではないでしょうか。
冒頭で紹介した「認知症施策推進大綱」には、「認知症発症を遅らせる、進行を緩やかにする」といった言葉が見受けられます。しかし、「予防」については触れられていません。それというのも、医学的には、まだ認知症は「予防できる」とは言えないからです。
しかし、認知症に関する数多くの研究結果と多くのプロフェッショナルたちの熱意によって、前向きな情報が発表されています。
たとえば、ウォーキングなどの有酸素運動は認知症予防効果があるとされていますし、脳のトレーニングのような脳を活性化させる活動によって症状が改善することも分かっています。
認知症の完全な予防法が見つかるまでは、まだしばらく時間がかかるでしょう。それまでの間は、このような改善効果が期待できることに積極的に取り組んでいくことが望まれます。
前述の通り、認知症の症状を改善したり、予防につながると期待できそうな生活介入方法が見つかってきて、早期にそれに取り組めばより望ましい未来に結びつくことも分かってきました。
では、より早くいつもと違う様子に気付くには、どのようなことを理解しておけばいいのでしょうか?代表的な「もの忘れ症状」を例に、押さえておきましょう。
特に高齢者のもの忘れ症状は、「加齢に伴うもの忘れか、認知症のもの忘れか」判断しづらいと思われがちです。しかし、次のように明らかな違いがあります。
加齢に伴うもの忘れの特徴
どれも、人生で一度や二度は経験したことがあるかもしれません。しかし、認知症のもの忘れでは、少し様子が異なります。
認知症のもの忘れの特徴
こうした違いを理解しておくと、身の回りのひとの認知症を早期に発見できるでしょう。
では、「あれ、もしかして?」と思った時、誰に、またはどこに相談すればよいのでしょうか?
相談先として一番に挙げられるのは、かかりつけ医です。認知症の方の中には、脳梗塞や脳出血、糖尿病、高血圧などのほか、高齢による持病を抱えていることも考えられますが、そうした病歴のほか、過去の服薬情報や手術等の情報を本人以上に詳しく把握しているのが、かかりつけ医、というわけです。この情報を認知症の専門医と共有できれば、より良いケアが可能になるでしょう。
他方、最近は専門の医療機関も充実してきました。診療科なら、主に「もの忘れ外来」「精神科」「神経科」「心療内科」「老年期外来」「老年内科」などが挙げられます。また、お住いの公共団体の地域包括支援センターでも、相談を受け付けています。
より質の高いケアを行なうためにも、日頃から家族どうしで「自分のかかりつけ医はこの先生」や「過去、こんな病気をして、ここで治療した」といった話をしておきたいですね。
では、そうした機関に相談した後、どのような検査を経て認知症と診断されるのでしょうか?概要を見てみましょう。
(1)面談
専門医が、本人や家族と面談をし、これまでに比べてどのような変化があったか、過去にかかった病気やケガはどのようなものがあったか、ヒアリングをしていきます。
診察室で行われるため緊張してしまい、うまく伝えられない場合もあるかもしれません。普段、病院に行くことが少なければなおさらでしょう。もし余裕があれば、事前に話したいことや気になっていることなどを紙にまとめておくといいかもしれません。
(2)一般的健康診断
血液検査や心電図、感染症検査、X線検査といった一般的な健康診断も行なわれます。このデータは、「鑑別診断」に利用されるものです。鑑別診断とは、データや状況を元に過去の蓄積と比較しながら、罹患している可能性がある病気を洗い出していくものです。
(3)認知機能検査
簡単な質問に答えたり、作業を行なう様子等を検査します。行なったことには点数が付けられ、クリアできると加点されます。その点数の合計が一定以下だった場合、「認知症の疑いがある」と判定されます。ただし、獲得した点数が低いからと言って、必ずしも「認知症だ」とは判断されません。
日本では、「長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」「ミニメンタルステート検査(MMSE)」「時計描画テスト」が多く利用されています。
(4)脳画像検査
認知症の特性上、脳を“診る”ことも欠かせません。病院の設備によりますが、MRIが多く利用されます。
こうして多角的なアプローチを実施し、認知症の種類や進行度合いの判定などが行われます。
認知症だと判定されたら、自身はもちろん家族など身近な人も大きな衝撃を受けるかもしれません。
一方で、「認知症施策推進大綱」によると、2018年には認知症の方の数は500万人を超え、65歳以上の高齢者の約7人に1人が認知症だと見込まれています。
また、いわゆる「団塊の世代」が全員75歳以上の後期高齢者になる2025年には、65歳以上の高齢者は全人口の約30%を占め、認知症の患者数は700万人前後になると推計されています。これは高齢者の約20%に相当する数です。
こうした予測を見ると、認知症になること自体は決して珍しいことではなくなる、と言えそうです。
この機に、自分が認知症になったら?あるいは、家族や身の回りの人、職場の誰かが認知症になったら?を想像して、「自分だったらどうしてほしいか。自分なら何ができるか」を考えてみませんか?
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監修:東北大学特任教授 村田 裕之
1987年東北大学大学院工学研究科修了。仏国立ポンゼショセ工科大学院国際経営学科修了。
日本総合研究所などを経て2002年村田アソシエイツ代表に就任。現在スマート・エイジング学際重点研究センター企画開発部門長。
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