2020年6月10日 | 会社経営のこと -Business-
超高齢社会への移行と少子化が同時に起こる日本。「成長が鈍化する国内市場だけでなく、海外市場にも目を向けてみよう」というフレーズが聞かれるようになりました。実際に、そうした事業戦略を実行する企業は増えているようです。
ただ、こうした海外進出する企業の話題は「大企業だけのことだろう」と思われがちかもしれません。しかし、1959年の誕生以来、全世界でお客さま・パートナーに世界中の緊急事態のアシスタンスサービスを提供しているアクサ・アシスタンス・ジャパン株式会社の大谷淳氏によると、「そうした考え方はひと昔前のこと。最近は中小企業がE-コマースをきっかけに海外市場に積極的にチャレンジしている」とのこと。
では、日系中小企業はどのような狙いで海外に展開しているのか?また、チャンスと表裏一体になっている課題やリスクにはどういったものがあるのか?「中小企業の海外進出の成功のカギ」を前後編に分けて掘り下げてみましょう。
――海外進出する中小企業が増えていると聞きますが、その背景について教えてください。
ひと昔前までの「海外進出」というと、大手製造業や建設業が多くを占めていました。製造業の場合、日本で製品を安く売るためにより安価な労働力を求めて中国・東南アジアへ進出するケースと、高品質な日本製商品を高い購買力を持つ欧米向けに販売すべく進出するという2パターンが挙げられます。いずれも、製造業や貿易商社など、限られた業種だけが採る事業戦略だったと言えるでしょう。
建設業の場合は、海外の石油等大型プラント建設プロジェクトを受注した大手建設業者がその子会社や協力会社を伴って海外進出する、といったものがよく知られています。こうした海外進出には大きな覚悟と投資が必要だったことは言うまでもありません。
しかし、最近の傾向としては、こうした「大手企業に付随する」というより、小売業やサービス業を営む中小企業が単独で海外進出するケースが目立っています。それを後押ししているのが、訪日外国人旅行客の増加、インターネットやソーシャルメディアの普及といった変化だと考えられます。
近年は、いわゆるインバウンド消費だけでなく、「日本旅行の際に買ったり見たりした商品やサービスをまた買いたい」と考える外国人によるE-コマース利用が活発になっています。そうしたこともあり、国や自治体が国をまたいだE-コマース(越境EC)に力を入れている、というわけですね。
越境ECを始めたとしても、最初のうちはインターネット上のショップがあれば日本国内で事業は展開できます。しかし、やはり現地の顧客は「ネットで見たものを一度手にとって確かめてから買いたい」と思うもの。そんなニーズがある場所に人気の商品を持って乗り込み、現地でビジネスをスタートさせる、というのが中小企業の小売業やサービス業が海外進出するうえでの新たな流れになりつつあります。
これをバックアップすべく、商工会議所も「日本見本市」のようなツアーを組んで、東南アジア諸国を巡ったりしています。そうした小さなチャンスを逃さず、ある程度の売り上げや事業の成長性を見極めた上で海外進出ができる、つまり、小さく始めて、しっかり根差すことを目的とした海外進出が、中小企業なら可能だと言えそうです。
こうした例はこれからどんどん増えていくと考えられます。足元を見ると、私たちが提供する「商工会議所の海外危機対策プラン」への問い合わせが、2017年の51件から2018年は679件に。そして、2019年には1099件へと大きく増えています。この伸びは、「海外進出しよう!」と決めた中小企業が実際に一歩を踏み出す際の“備え”をしている証拠だと考えています。
2018年12月30日に発効した「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)」により、巨大な経済圏が成立。これも、日本国内の中小企業や小規模事業者による海外市場の開拓の追い風になっていると言えるでしょう。
中小企業庁も、「海外展開の成功事例」と題した特設サイトで、先進企業が実体験で得た成功のためのノウハウや販路開拓の方法などについて詳しく紹介しています。事業内容も、製造業から食品、アパレルなど幅広いので、実際に海外進出を計画しているなら大変参考になる資料です。
参考:「読んでトクする!ミラサポ総研(中小企業庁_WEBサイト)」
ここで紹介されている事例からは、「粘り強く、自社の製品やサービスが持つ力を信じて進めば、道は拓ける」という気付きだけでなく、中小企業や小規模事業者の強みは「スピード感にある」との発見もできます。それというのも、多くの海外企業はビジネスを推進するスピードが断然早く、取引先企業にも同じスピード感を求めてくるからです。
前出の大谷氏も、次のように解説します。
大企業が海外進出するとなると、投資額は大きくなり、失敗した時のリスクも大きくなります。また、株主の意向は無視できないものです。そのため、どれだけ魅力的な案件だったとしても、慎重にならざるを得ず、どうしても決定が遅くなってしまう、という課題があります。
その点、中小企業は判断や意思決定のプロセスが大企業より大胆にできる、という圧倒的なアドバンテージがあります。物販であれば、越境ECの敷居が下がった今では、仕掛けをしっかりすることで小さく始めることも可能です。
小さな投資額で日本では考えられないような利益を生む例としては、日本の農産物や日本酒の例が有名ですね。イチゴやナシ、柿などの果物は特に人気で、日本の10倍近い高値で取引される、なんてこともあり得ます。確かな品質とアイデア、そして少しの勇気があれば、事業規模の大小や新しい古いにかかわらず、すべての企業に海外進出するチャンスはある、というわけです。
ここまで述べてきた通り、中小企業は「大企業にはない海外進出でのアドバンテージ」を持っています。しかし、チャンスがあればリスクもあるもの。中小企業の海外進出での課題はどんなものが挙げられるのでしょうか?
――中小企業が海外進出するにあたり、巻き込まれやすいトラブルや知っていれば回避できる「よくある失敗」はありますか?
中小企業で一番多いトラブルはビザ(査証)にまつわることです。出張のような短期間だったとしても、工場に入ったり商談をしたり、仕事を目的に海外を訪れる際には就労ビザが必要です。
にもかかわらず就労ビザを取らずに仕事をしているところを当局に見つかれば、連行されて取り調べを受けたり、出国できなくなったり、といった事態に陥り、本人はどうにもできなくなってしまうというケースも起きてしまいます。
もちろん、会社の命令に従って海外に行き、業務を果たしているだけなので、本人に非はありません。しかし、今後一切その国に入国ができなくなる、となれば、目も当てられませんよね。本人だけでなく、せっかく販路開拓した国に担当者が渡航できなくなれば、業務も滞り、企業にとっても将来的な収益をフイにしてしまうことも考えられます。この点を取ってみても、大きな損失だと言えるでしょう。
また、詳しくは後述しますが、滞在が一定日数を超えると免税が適用されないなど納税の問題もあまり知られておらず、ノウハウがない企業が陥りやすい失敗として挙げられます。ただ、このことは「知っていれば対策できること」だと言えるでしょう。
むしろ、私たちが海外進出をするにあたって中小企業が負うリスクとして最も懸念しているのは、企業の「安全配慮義務違反」についてです。これは、対策が極めて難しいだけでなく、中長期的には訴訟リスク等も考えられる問題です。
後編に続く
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人口減少や訪日外国人旅行客の増加など、近年の著しい社会状況の変化は、中小企業の事業戦略に大きな影響を与えるものとなっています。そのひとつが、ここで取り上げた「スモールスタートからの海外進出」だと言えるでしょう。
当然のことながら、海外市場には、確かに大きなチャンスが眠っています。しかし、その玉石混交ななかから「自社にとってのチャンス」に巡り会える確率が高まっている、というのが、これまでとの大きな違いだと考えられます。
後編は、「中小企業の海外進出におけるチャンスとリスク(後編) ~「安全配慮義務」を知ってますか?」と題し、「安全配慮義務」とはなにか?具体的にどのような義務を負い、どのような対策を行なわなければならないのか?といった点について取り上げます。いままさに海外進出を計画している中小企業の経営者の方はもちろん、すでに進出しているという方にも、きっと役立つ情報があるはず。どうぞご期待ください。
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