中小企業と認知症~経営者の長寿化による新たな事業リスクと健康経営~

#会社経営 #今できること #健康 #健康経営 #人生100年

「人生100年時代」という言葉が“当たり前の未来”として語られるようになった今日。多くのひとがこれまで以上に長く生きるための準備をするようになってきました。しかし、経営者、特に中小企業の経営者にとっての「人生100年に向けた備え」はこれだけで十分とは言えそうにありません。

確かに、経営者が長寿化することは、長年培った経験や信頼、知識を用いて安定的に経営を続けられることを意味し、成熟した事業経営と安定した成長につながると考えられます。これは、従業員や取引相手にとって喜ばしいことでしょう。

一方で、経営者自身の健康問題、とりわけ加齢に応じてリスクが高まるとされる介護・認知症については、事業リスクになるとも考えられます。これからは、「社長としての“寿命”が想像していたよりも長くなること」を意識し、その状況に見合った策を講じる必要があると言えるでしょう。

しかし、アクサ生命が特別協賛して昨年行なったシンポジウム「中小企業と認知症」に登壇した日本商工会議所の関係者や識者らからは、「中小企業の事業リスクとして認知症をとらえているという例はまだ聞いたことがない」との声が…。

そこで、この記事では、中小企業経営者の長寿化や介護・認知症によって具体的にどういったリスクが考えられ、どう対策すればいいのかについて、4会場で開催されたシンポジウム「中小企業と認知症」での議論や、2019年5月~8月に全都道府県の中小企業経営者6,622人に対面式で行なったアンケートをもとにまとめた「社長さん白書」の内容をもとに、紐解きます。

企業のリスク対策の要である事業継続計画(BCP)
~そこに「経営者が就業不能になった場合」を織り込んでいますか?

中小企業庁のサイトによると、事業継続計画(BCP)の定義は、「企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のこと(参照:中小企業BCP策定運用指針)」とあります。

簡単に表現すると「もしもの時でも事業を続けられるようにするための備え」と言えるでしょう。昨今、自然災害が立て続けに起こったことから、改めてBCPの重要性に注目が集まり、この策定に本腰を入れる企業もますます増えていると聞かれます。この「もしもの時」は、自然災害やテロのような業界・業種にかかわらず影響を受けるおそれがあるものだけではありません。たとえば、特定の製品やサービスに関する国際標準の変化や仕様変更、技術革新など、事業の特色や規模に応じて想定されるさまざまなリスクも含まれます。

さらに、不確実な外部環境に影響されないように備えることだけではなく、自社内で起こることにも目を向ける必要があります。たとえば、避けがたいケガや事故、それに伴う入院で就業不能な状態になることも、事業継続のリスクでありBCP対応するべき要因と考えられます。特に中小企業の経営者の場合、自身も現場の第一線で活躍していることが少なくないので、この懸念は高くなりがちだと考えられます。そのためか、「社長さん白書」でも、経営者の多くが、就業不能になった場合を想定し、経済的な損失を補てんするための保険に加入しているとの結果が出ています。

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経営者の長寿化によってBCPに「介護や認知症」も織り込む必要が

「万が一、就業不能になるとしたら」という問いに対し、これまではおもに、ご自身の病気やケガ、ご家族の介護などを想定していたかもしれません。しかし、冒頭で述べた通り、経営者が長寿化する今日、「自分自身に介護が必要になったり、認知症になること」も想定しないわけにはいかなくなってきました。それというのも、経営者が認知症だとわかった場合、「事業判断や株主総会における議決権行使ができない」という、事業継続が困難になるリスクに直面するおそれがあるからです。

しかし、実際には、「議決権行使ができなくなることを知らない」という経営者は少なくなかったり、また、もし知っていたとしても対策を講じていない、とする意見が大多数のようです。

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議決権行使ができなくなれば、銀行からの借入金や運転資金の確保、契約の継続にも問題が生じると考えられます。認知症の場合、このほかに「銀行のATMで用いる暗証番号を忘れてしまい、口座が凍結され振込が滞る」など、経営者自身はもちろん、取引先や従業員にまで大きな影響が及ぶことも考えられるでしょう。こうした事態を回避するためにも、事前知識として、経営者が法定・任意の後見人制度や家族信託への理解を深めておく必要があるはずです。

会社にとっての『2025年問題』もし経営者が認知症になったら?~知っておきたい制度について」では、後見人制度の詳細や家族信託の仕組みのほか、それぞれの注意点についても紹介しています。こちらもぜひ、ご覧ください。

介護・認知症に対して、いまできること「スマート・エイジングの実践」

経営者をはじめ、人生100年時代を生きる私たちにとって、今後、介護や認知症と向き合う必要性はいま以上に高まりそうです。他方、その課題を解決すべくさまざまな研究が続いており、今からできる介護や認知症への有効な取り組みも明らかになりつつあります。

たとえば、「認知症ゼロ社会の実現」を掲げている東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターの村田裕之教授は、「現状の要介護認定率は75歳から急増し、85~89歳になると約半数以上のひとが要介護状態になる。ところが、この事実を知らないひとが結構多く、特に男性は『自分は大丈夫だ』と思って何の対策もしないことが多い」と指摘します。

続けて、「従来、脳卒中が要介護状態になる原因の一位だったが、ごく最近、認知症が一位になった。とはいえ、認知症の方の約3割は脳卒中がきっかけになって起こる脳血管性認知症なので、やはり介護予防・認知症予防のためには、まずは脳卒中を防ぐことが大切だ」と強調。介護・認知症予防のための生活習慣として、「スマート・エイジングの実践」を推奨しています。

村田教授は、「エイジングとは日本語で加齢(かれい、齢を加える、歳を重なる)と言い、受精から死ぬまでの人間の発達の過程を言う。加齢とは成長であるという点を重視し、いくつになっても人は成長できる、と考えること。これが、私たちが提唱している『スマート・エイジング』だ」と言い、それを実践するための4つの条件を提唱しています。

【スマートエイジングの4つの必要条件】
 1.脳を使う習慣
 2.運動身体を動かす習慣
 3.バランスのとれた栄養習慣
 4.人と積極的に関わる習慣

「中小企業の場合、経営者も従業員も多くが65歳以下なので、この場合の認知症は『若年性認知症』になる。10万人に47.6人の割合と言われており、男性の方が発症する確率が高い。4万人弱の若年性認知症の方がいるとの推計があり、働き盛りの発症が特徴的だ。従業員や経営者がこれを発症する場合、気づくきっかけは『物忘れや言動がおかしい』ということ。支える家族は抑うつ状態になりやすく、収入の不安を抱えてしまうことも少なくない。若年性認知症の発症原因の一位も脳卒中だ。これを予防するには、ウォーキングやスロージョギングなどの有酸素運動を1日約30分以上行なうのがよい」と、村田教授。

「有酸素運動の機会を作るために出勤時に1駅分歩く、万歩計を配って目標歩数を示すといった取り組みのほか、昔、工場職員がみんなでラジオ体操をしていたような、会社の取り組みとして運動の機会をもうける手もある。『健康経営(※)』の一環として検討するとよいだろう」と、提案します。

※「健康経営」は、特定非営利活動法人 健康経営研究会の登録商標です。

「健康経営」は従業員や企業だけでなく、経営者にこそ意義深い

村田教授の言葉にも出た「健康経営」。これは、会社として従業員の健康づくりに取り組むことであり、その結果、従業員は健康習慣が身に付き、企業は従業員の意欲向上や生産性を高めるよう促すことができると期待されています。

アクサ生命でも、健康習慣アンケートを出発点に、会社ごとに課題や状況に応じた健康経営実践計画を一緒になって策定し、その実践をサポートしています。

関連リンク
アクサ生命の付帯サービス 健康経営サポートパッケージ

健康経営に関する認知度は年々高まっており、「社長さん白書2019」では、「(健康経営の)内容を知っており、取り組んでいる」とする割合が3年でおよそ倍になるほど浸透しています。

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確かに、「健康経営」は企業と従業員の方々の将来にとって価値のあることです。また、これに取り組むことで、企業イメージの向上など副次的なメリットが得られたとの声も聞かれます。そうしたことに加え、「自分のことは後回し」にしがちな経営者の健康を保ち、将来の介護や認知症リスクを低減するという意味でも、意義深いものだと言えます。

「社長さん白書2019」と同時期に経営者の配偶者を対象にデジタル調査した「社長の奥さま白書2019」によると、夫である経営者のみなさんへのメッセージとして、次のようなコメントが寄せられていました。


  • 社員と自分たちの幸せのために、より良い会社作りをしていきましょう。(30代)
  • なんでも自分でするのではなく、もっと従業員を頼っていいかと思います。体調を崩すと、本末転倒なので。。。そうやって従業員の方も仕事を覚え成長していき、経営者であるあなたの時間にも心にも余裕ができるかと思いますよ。(30代)
  • いつもとても感謝してます。健康で毎日気分良く働き楽しい生活を送ってもらいたいです。(40代)
  • 会社のことはよくわからないが、事故、トラブルがないことを願っています。(40代)
  • 自分の人生が折り返していることを自覚して準備を整えながら、会社の経営を考えて過ごしてください。若いと過信しないでください。(40代)
  • 休まず働き頭が下がります。とにかく体が心配です。ベストコンディションで仕事ができるよう、支えていきたいと思います。お互いに元気に働き、元気な老後を迎えたいですね。(40代)
  • 毎日忙しいのは分かりますが、たまにはのんびり一緒に過ごして欲しいかな?も少し体をいたわって欲しいです。(50代)
  • 健康で元気に過ごし、計画的に良い状態で次世代にバトンを渡してほしい。(50代)
  • 過去や未来に生きるのではなく、現実の今を悔いなく働きましょう。自分のペースで生涯働き続けましょう。それには、健康である事が一番ですね。(50代)
  • 健康には気をつけて、社員にも取引先にも感謝を忘れない経営者であってほしい。(50代)
  • 自分の病気や体調を考えながら、勇退時期を決め、その準備をしてほしい。(60代)
  • 自分の体は自分だけのものでは無いことを考えて欲しい。(60代)
  • 何にしても、健康と安全が1番大事です。数年後に迫る退職まで、お互い頑張りましょうね。(60代)
  • 健康第一で事業所承継してほしい(70代)
  • このまま元気で仕事続けて欲しいと思ってます(70代)

(いずれも原文ママ、太字は編集部注)


とにかく「健康」について気遣う言葉が多いことは、裏を返せば「経営者は自分の身体の健康をおろそかにしがち」ということの現れでもあるでしょう。

もちろん、「経営者の身体はご自身だけのものではない」ということは、経営者自身が十分よくわかっているはず。困難な状況や越えるべき課題が多い今日ですが、「身体が資本」だからこそ、ご自身が率先して健康を気遣い、健康経営への本格的な取り組みを始めてみてはいかがでしょうか?

そうすることで、就業不能になるリスクを低減させ、BCPもかなうと同時に「健康への意識」「身体を気遣う気持ち」が社内で徐々に広がり、結果として「健康経営」の実践が加速する、とも考えられるはずです。

「どのような企業にして勇退したいか」を考えれば「健康経営」の意義が見えてくる

東北大学加齢医学研究所所長であり東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター長の川島隆太教授は、認知症についても「科学的に正しい方法で脳を鍛える学習療法を行なえば、人種や言語を越えて脳を活性化し、症状を食い止めたり、回復に近づけることもできると分かった」とし、次のように述べていました。

「新聞の社説など800文字程度の文章をできるだけ早く読むのが効果的だ。もし社説が堅苦しいと感じたら、コラムを3回連続で読み上げるのでもいい。小さな努力を続けることが、脳の機能を保つ一歩だ」とアドバイスしたうえで、「最終的にはヒトはみんな旅立つことになる。ならば、どのような最期を迎えたいか、想像してみてほしい。そして、『それを実現するためにはいまなにをすべきか…』を考えることが、健康を考える第一歩になる」。

この言葉を中小企業の経営に当てはめると、経営者として自分の会社をどのような企業にして勇退したいかを想像することが、「健康経営」に取り組む意義を見出すきっかけになる、というふうに言い表せます。

大事に育てた自分の会社を健全な状態で次世代に引き継ぐ、との願いをかなえるために、あなたの会社でも、あなたの手で「健康経営」を始めてみませんか?

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社長さん白書2019から読む、中小企業生き残り戦略 ~就業不能リスクを踏まえた事業継続計画(BCP)を~


監修:東北大学特任教授 村田 裕之

1987年東北大学大学院工学研究科修了。仏国立ポンゼショセ工科大学院国際経営学科修了。
日本総合研究所などを経て2002年村田アソシエイツ代表に就任。現在スマート・エイジング学際重点研究センター企画開発部門長。


アクサ生命による『社長さん白書』は、2004年より全国の中小企業経営者の皆さまに対面で実施している意識調査で、2019年で8回を数えます。

今回は、「経営者の未来づくり」をテーマとし、「平成時代を振り返った感想」、「事業承継」、「就業不能リスク、介護・認知症の意識について」、「ご自身の未来づくり」、「健康経営の取り組み」について質問しました。調査結果からは、「平成」における最も印象に残った出来事の上位に「事業承継・後継者問題」が挙がり、事業承継の経験のある経営者のうち、40.6%が事業承継の契機が先代の死亡による「相続」や「就業不能」など予期せぬタイミングであったと分かりました。また、80%以上の経営者が「勇退」を前提に考えている一方で、49.4%の経営者は事業承継の方針や時期は「決めていない」と答えるなど、大継承時代を前に、まだ解決すべきことがあると感じさせる結果も見られました。また、今回は、経営者の配偶者を対象に、「社長の奥さま白書2019」と題したデジタルアンケートも併せて実施しました(調査期間:「社長さん白書」2019年5月~8月、「社長の奥さま白書」2019年5月~7月)。

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