2019年2月8日 | 会社経営のこと -Business-
中小企業庁が発表した2018年版 中小企業白書によると、中小企業の経営上の問題点として「求人難」を挙げる企業の割合が、ここ数年で増加の一途をたどっていると記されています。これは、80年代後半から90年代初頭の景気拡大期に迫る水準、バブル期にも匹敵するほどなのだとか。
今日の経営者は、人材が少なくなったとしても業績を保ち、伸ばすにはどうすればよいか?という問いに向き合う必要がありそうです。
この答えのひとつとして挙げられるのが、生産性向上に取り組むことであり、そのカギとなるのが「企業のIT化」だと言われています。
そこで、ここでは、求人難の現状とIT投資によってそれを解決した事例等を交えて、企業にとってIT投資がいかに重要であるかを確認していきましょう。
現在問題になっている採用難の背景には、景気拡大の影響(循環要因)に加え、別の記事でも紹介した生産年齢人口の減少(構造要因)も影響していると考えられます。
このほか、「地域にそもそも若年者が少ない」との声が聞こえることはしばしばですし、経営者からは「きつい力仕事のイメージがあるのか、応募者が集まらない」「収入面の不満や将来性の不安があるのか、人材がより規模の大きな企業に流れてしまう」との声もあります。
こうした状況が続くと、最悪の場合「人手不足倒産」につながる懸念も出てくるでしょう。実はその傾向はすでに見られ、「東京商工リサーチ」によると、2018年(1-12月)の「人手不足」関連倒産は387件と前年比22.0%増に達し、2013年に調査を開始以来、これまで最多だった2015年の340件を上回り、最多記録を更新したとのデータもあるのです。
しかし、このような課題を前にしても、経営者は業務が回る体制を整え、事業を継続して収益を上げていかなければなりません。そのためには、いま頑張ってくれている社員たちの力を最大限に発揮してもらい、期待する成果を出してもらえるよう働きかける必要があります。
そのための重要な取り組みとして、業務プロセスの見直し、人材活用面の工夫等もあり得るでしょう。しかし、やはり更なる効率化を目指すなら、ITの活用は避けては通れません。
中小企業の経営者の中には、「いきなりIT活用と言われても、導入費用がどのくらいになるか分からないし、費用対効果も未知数だからな…」と逡巡する向きもあるかもしれません。
しかし、後述しますが、最近は導入のハードルもコストも下がっており、検討しやすくなっているようです。
他方、電子データでのやり取りやオンライン照会・取引といった分野をIT化するよう、取引先企業や顧客から迫られることも十分考えられます。やや困った事態とも考えられますが、そうした協力を早期に実現できれば、ビジネスチャンスが広がったり、取引先との関係をより深くしたり、といったメリットが得られる可能性も出てくるかもしれません。
では、IT化ができている企業とそうでない企業にはどのような差が出てくるのでしょうか?調査データで見てみましょう。
2018年4月の中小企業庁「最近の中小企業・小規模事業者政策について」によると、IT投資を積極的に行なう中小企業の方が売上高・売上高経常利益率の水準が高いとされています。
出典:中小企業庁「平成30年4月 最近の中小企業・小規模事業者政策について」
また、人材不足でも業績を伸ばす企業は省力化、アウトソーシングに加えて、IT導入にも積極的に取り組んでいるとのデータもあります。少ない人的リソースでも業績を伸ばす ― まさに目指すべき生産性向上が叶っている、と見て取れます。
出典:中小企業庁「平成30年4月 最近の中小企業・小規模事業者政策について」
もちろん、業種や設立年数、社員の平均年齢や構成などの条件によってIT投資がしやすいかどうか、は違ってくるでしょう。しかし、これらのデータは経営者の方にとって参考になるのではないでしょうか。
IT化による好影響は前述の通りですが、まだ多くの企業において、ITを活用した効率化が進んでいない状況ではあるようです。中小企業庁「平成30年4月 最近の中小企業・小規模事業者政策について」で、その一番の理由には、「ITを導入できる人材がいない(43.3%)」が挙がっています。この記事を読まれている方の中にも、同じ理由を思い浮かべられた方がいらっしゃるかもしれませんね。
こうした現状を受け、政府も中小企業・小規模事業者等のIT化を後押しする政策を打ち出しています。
たとえば、「プラスITセミナー(平成29年度補正サービス等生産性向上IT導入支援事業)」は、ITリテラシー向上やIT導入による生産性向上などを目的に、全国各地の支援機関(地域商工会議所)等と連携しながら、47都道府県、全国100ヵ所で無料開催されたイベントです。ここでは、事例やITでできることの紹介のほか、体験ワークショップも行なわれたそうです。
また、2018年度の政策でも、IT化を検討する中小企業を対象にした融資*が講じられ、導入のハードルを下げるよう働きかけがなされています。
*政府系金融機関の情報化投資融資制度(IT活用促進資金)【財政投融資】
さらに、2018年12月21日には、中小企業生産性革命推進事業としてサービス等生産性向上IT導入支援事業(補助上限額:450万円、補助率1/2)等を含む2018年度第2次補正予算案が閣議決定されました。
では、実際にこうした制度を利用してIT投資を進めた企業にはどのような変化が訪れたのでしょうか?2018年版 中小企業白書で紹介されている2つの事例を見てみましょう。
<企業と課題について>
・導入したのは、石川県の青果の仲卸業者のA社(従業員22名、資本金2,400万円)。
・売買の内容を入力し、売上等を管理する経理処理の基幹システムを活用していた。
・当時の課題は、伝票内容の入力業務が大きな負担となっていたこと。
この会社では、それまで、営業担当者が朝6時から始まる競りの結果をメモに走り書きし、それを手書きで伝票に転記。事務員2名が基幹システムに入力する、という業務フローで、300枚以上ある伝票を処理していたそうです。
入力作業が終わるのはお昼近く。そこから入力結果の確認作業もあり、営業担当者、事務員とも負担が大きかったと記されています。
こうした問題を解決すべく、当時普及し始めていたタブレットの活用について、付き合いのあるシステム会社に相談したA社。その後1週間でプロトタイプ(仮のプログラム)ができ、1か月半で稼働までこぎ着けることができたと言います。
では、IT化によって得られた成果はというと…?
<IT投資によって得られた成果>
・営業担当者はタブレットに野菜の種別、数量、金額、産地等の情報を入力するだけに。
・事務員による伝票入力の時間が以前の3分の2に削減。営業担当者の拘束時間が2時間ほど短縮。
・こうした労働環境の改善は評価が高く、新規採用にも寄与。
・コスト面の効果も大きく、事務員の人件費と専用伝票の印刷費とを合わせると年間で約400万円のコストが抑えられる結果に。
導入費用(システム開発と、タブレット購入)は150万円。4台を導入し9名で共用することで、最低限のコストで最大限のメリットが得られたと見て取れます。また、年配の営業担当者などITに不慣れなスタッフへの配慮があったことも成果を上げる後押しになったと考えられます。
※2018年版 中小企業白書 4章 IT利活用による労働生産性の向上(事例2-4-1)を加工して掲載
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A社の成功のポイントは、まず効果が大きいと思われる機能やサービスに絞ってスモールスタートしたことだと考えられます。こうしてひとつ目のゴールを達成できたら、その後、段階的にIT化を進める弾みにもなるでしょうし、リスクを抑えながら社内に経験やスキルを蓄積していくこともできる、というわけです。
<企業と課題について>
・導入したのは、兵庫県のB製作所(従業員40名、資本金2,000万円)。
・産業機械向け部品の製造業を営んでいる。
・経営課題は大きく3つ。
①納期遅れへの対応を主眼とした生産性の向上
②顧客ニーズの多様化への対応が必要
③人手不足が常態化
限られた人手で納期を短縮しつつ生産性を高めることが必須と考えた同社は、地元の商工会議所に相談しました。そのため、ソフト面ではミラサポ*1の専門家派遣制度による提案を受けられたそうです。専門家の指導により身近な作業を補助するソフトの開発を自前でできるようになり、将来的な自社での生産管理ソフトの開発に弾みがついたと紹介されています。
また、ハード面では、商工会議所の支援を得て申請を行なった結果、専門家派遣制度として生産管理システムの導入部分の指導を受けることができたとあります。
加えて、市のものづくりIT化推進事業(補助金)で、生産管理システムと連携させる工場内のWi-Fi化を進めることで、Windowsタブレットが使用しやすくなったそうです。
その結果、以下の効果があったと報告されています。
<IT投資によって得られた成果>
・作業者の手元で様々な情報を確認できるようになった結果、1人当たり1日15分、現場全体で1日9時間程度の業務時間削減に。
・従来のノートPC等と比較し、タブレットでは現場等で使用した際の故障率が大幅に低下。
なお、費用は以下の通りでした。
・ミラサポの専門家謝金の総額4万円は制度利用のため自己負担なし。
・市のものづくりIT化推進事業(補助金)による工場内のWi-Fi化は総額217万円(工事費や設定料金も含む)。補助額は上限の100万円、自己負担額は117万円。
*1 ミラサポは、公的機関の支援情報・支援施策(補助金・助成金など)の情報提供や、経営の悩みに対する先輩経営者や専門家との情報交換の場を提供する、中小企業・小規模事業者の未来を支援するサイトです。
※2018年版 中小企業白書 4章 IT利活用による労働生産性の向上(事例2-4-5)を加工して掲載
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B社の事例は、IT化を推進するにあたり、行政や支援機関からのサポートを上手く活用して成功した好例です。同社社長は、的確なアドバイスやサポートを受けるために、自社の課題やニーズを明確にしたうえで専門家への相談に臨んだと言います。このこともIT化成功の要因となったと言えるでしょう。
紹介した2つの事例は、これからIT化を検討する経営者にも大いに参考になることでしょう。他方、「IT投資による経営力強化の重要性は分かった。我が社でもさっそく着手したい!しかし、どこから手を付ければよいのか…」そんな思いを抱く経営者の方も多いかもしれません。
そこで、次回の記事では具体的な進め方や留意すべき点について見ていきたいと思います。
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経営者が押さえておくべきIT化のポイントとは?(後編)- その具体的な進め方
監修:
アクサ生命 デジタル&カスタマーエクスペリエンス部 デジタルマーケティング課
オンライン・プレゼンス・マネージャー 保栖 文博
(中小企業診断士、第一種・第二種情報処理技術者、AFP)
企業のライフステージに応じた様々な課題にお応えし、「100年企業」を目指すためのサポートをいたします。アクサ生命の『社長さん白書』にご興味をお持ちの方は、公式サイトよりお問い合わせください。
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