会社にとっての「2025年問題」もし経営者が認知症になったら?〜知っておきたい制度について

#会社経営 #今できること #事業承継

内閣府が発表した「平成29年版高齢社会白書」によると、65歳以上の認知症高齢者数と有病率の将来推計は次のように記されています。

●2012年は認知症高齢者数が462万人(65歳以上の高齢者の約7人に1人(有病率15.0%))
●2025年には約5人に1人が認知症を発症する(推計)

出典:内閣府「平成29年版高齢社会白書」第1章 高齢化の状況(第2節3)

すでに超高齢社会に突入し、高齢化率で世界一の日本。私たちにとって、認知症はいま以上に身近なものになっていくと考えられます。確かに、認知症になれば日常生活においてできなくなることが増えるなどもあるでしょう。しかし、だからと言って過度に心配する必要はありません。軽度から中程度の段階では、理解ある周囲のちょっとした気遣いやサポートがあれば一緒に暮らしていくことはもちろん、一緒に仕事をすることも可能です。

ただ、もし経営者が認知症になった場合、日々の事業の継続においても、組織体制においても、さまざまな問題が予想されます。では、どのようなことが懸念され、どういった対処法があるのか?ここでは事業に絡む法的な問題点について詳しく見ていきましょう。

経営者が担う役割の中で、生じる問題は?

たとえば、それまで第一線でバリバリと働き、誰よりも早く決断を下していたカリスマ経営者がいたとしましょう。高度経済成長の少し前に独立し、小さいながらも独自の技術と営業力、ユーモアに富んだ性格で大手取引先とも長く親密な関係を築き、個性がキラリと光る中小企業として今日まで歩んできたとします。

しかし、そんなカリスマ経営者に、「あれ、こんな判断を下すようなひとではないのに」とか「取引先との会議を忘れていた」「あんなに誇りに思っていたプロジェクトなのに、やったこと自体を忘れているかのようだ」などと、周囲が戸惑うようなミスやもの忘れが増えてきました。

とはいえ、最初のうちは、「社長も人間だし、そんなこともあるよね」と笑い話にすらなっているかもしれません。ですが、同じようなミスやもの忘れが続き、ついには「取引先の担当者名も出てこない」なんてことに。さすがに心配した家族が、「健康診断に行こう」と言って訪れた病院で、認知症と診断されたとします。

本人も家族も大きなショックと不安を抱える一方、その事実を聞いた従業員たちだって「これから大丈夫だろうか?何が起こるのか?」と気が気ではない状態に…。こんなとき、企業が抱える不安要素はどんなものが挙げられるでしょうか?ライト・アドバイザーズ司法書士事務所の司法書士である佐久間寛先生に話を聞きました。

認知症になった経営者の代表権や経営権はどうなる?

――中小企業の経営者が認知症と分かったとき、従業員の頭に真っ先に浮かぶのは「社長は社長のままでいられるの?」ということ。つまり、会社の代表権、経営権はどうなるのか?ということでしょう。まずはこれについて、お話しを聞かせてください。

佐久間先生:まず、認知症と言っても、軽度から重度まで非常に幅が広いので、その方がどの段階に該当するのか、という問題はあります。ここでは一般論としてお話しさせていただきますね。

例で示されたように経営者の認知症が分かったとしても、それだけでは役員としての地位などに何も影響はありません。

もし影響があるとすれば、仮に重度の認知症で「判断能力が乏しい」ということで、成年後見制度を利用することになった場合でしょう。制度については後ほど解説しますが、仮にその方が後見開始の審判または保佐開始の審判を受け、被後見人や被保佐人になったら、これは役員としての欠格事由にあたるので強制的に役員からも外れることになります。

結局のところ、認知症として診断されても後見制度を利用しない限り、会社法上は役員としての地位は何も変わらないということです。ただ、株主がそのひとを役員として選び続けるかどうか、という別の問題が生じることも考えられます。

認知症になったあとも役員として活躍している場合、過去に結んだ契約はどうなる?

――自分の力で会社を大きく安定的に育てた経営者の場合、どのような状況でも第一線であり続けたいと強く願うものでしょう。そのため、後見制度を利用せず、周囲のサポートを借りながら仕事を遂行しようとする場合も考えられます。この時、新たな契約を交わしたり契約を変更・打ち切ったりしたとして、それは有効とみなされるのでしょうか?

佐久間先生:
認知症になったとしても、外見上の変化がほとんどないため、第三者や取引先の方が打ち合わせなどの機会を通じてそのひとが認知症だと分かるか、というと、難しいことだと思います。ちょっと言動がおかしいとか、話している内容があやふやで明らかに非合理的・非論理的であったなら、気付くこともあるかもしれませんが、軽度や中程度くらいの状態であれば普通に会話は成立する場合も多く、一般にはほとんど分からないようです。

では、そうした際に締結した契約内容はどうなるかというと、原則は有効と言えます。ただし、明らかにその時点で重度の認知症と診断されていて、医学的な見地からも「契約を締結できるだけの意思能力はない」と言うことであれば、民法の原則に照らすと、契約行為は無効になり得ます。ただ、そのように判断される明確な基準は特に示されていません。判断するひとの裁量に委ねられている部分もあります。

そのため、どのような状態だったとしても、契約書に押印をした時点で一時的にはその契約内容は有効なものと扱うことになります。その後、押印した人物が契約を締結した時点で「判断能力に大きな問題がある」と何かしらの証拠等があれば、それを元に効力無効の主張をすることができ、無効化できる場合もあります。ただし、この場合は裁判または契約者同士の協議が必要になるでしょう。

認知症で口座凍結!?金融機関からの借入金などはどうなる?

認知症になって実生活で一番困るのは、お金のことかもしれません。たとえば、暗証番号を忘れてしまってATMで預貯金を引き出せなくなったり、窓口で必要書類に自筆署名ができなくなったりするケースが挙げられます。

このように「判断能力が著しく低下している」と判断される場合、金融機関はその口座を凍結し、預貯金を確実に守ろうと対処するものです。そうすると、本人はもちろん、配偶者など家族も簡単には口座からお金を下ろすことができなくなります。そうした事態に備え、生活費のようななくてはならない資金は別口座で管理する、などの対策は検討に値するでしょう。

しかし、経営者の場合、これに加え、もっと心配なことが挙げられます。この点について、佐久間先生に聞いてみました。

――特に、中小規模の製造業の会社などでは、事業の運転資金を銀行から借り入れている、というケースが少なくないようです。その担保に、持ち家や保険を指定していることもあると聞きます。この担保や借入金は、認知症と判断されたらすぐに返済しなければならなかったり、新たな担保や連帯保証人が必要になるものなのでしょうか?また、借り入れる際の条件は、認知症と診断されたあとも有効なのでしょうか?

佐久間先生:
仮に経営者の認知症が分かったとしても、金融機関から一括返還を迫られたり、何か追加担保を要求されることは基本的にはありません。あくまで、融資契約を結んだ時点のことなので、その内容が変わることはなく、経営者が個人で連帯保証人になっていたり、担保として住宅や土地を提供している場合はそれが有効な状態が続きます。

一方で、経営者が認知症だった場合のリスクとして、金融機関は真っ先に返済の遅滞を警戒すると想像できます。また、業界内で「あの社長、認知症らしい…」との話が広がって、仕事を発注する企業が減り、業績が悪化するといったネガティブな流れも考えられます。そうなると、金融機関としても追加の融資等は見送ることになるかもしれません。

特に、カリスマ的な経営者が牽引する中小企業の場合、その経営者個人と金融機関との厚い信頼関係で融資が成り立っていることが多いと聞きます。それ自体はとても素晴らしいことですが、逆にもしもの場合に弱点になってしまうことも考えられます。

ほんの些細なこと、たとえば「最近、社長が姿を見せない」といったことでも金融機関は不審に思うでしょうし、第三者から「認知症らしいよ」と聞くと、本人から聞くよりも心象はよろしくないでしょう。そう考えると、今の借入金の問題よりも、今後の運転資金等の追加融資がかなうか、というリスクへの対処の方が優先課題になると思います。だからこそ、後継者の育成が不可欠だと言えますね。

さまざまな問題点を回避するためにできることは?

先述の通り、経営者が認知症と診断された場合、気付きづらいリスクやこれまで考えもしなかったリスクの芽に新たに悩まされるかもしれません。そのため、「もしそうなったら速やかに代表権を返してもらえるように決めておこう」と、考えるひとが出てこないとも限りません。しかし、そうした時、中小企業だからこその問題が浮き彫りになるケースもあるようです。

たとえば、中程度くらいに認知症は進行しているけれど、会社で代表権をまだ持っている経営者がいたとしましょう。ある事柄について、その経営者の判断が経営上とても深刻な問題に発展した、とします。そうなれば、他の役員たちは「代表権を返上してほしい」として争う構えを見せる場合もありうるでしょう。こうした場合、どのような顛末が考えられるのか、佐久間先生に聞いてみました。

佐久間先生:経営者の他に役員が数人以上いた場合、取締役会で代表取締役を解任することは可能です。さまざまなアプローチがありますが、強制的に役員としての地位をなくす、という意味では、後見制度を利用し、後見開始の審判を裁判所から受ければ、それが役員欠格事由になり、強制的に退任ということになります。

なお、後見制度を活用するための審判は、認知症になった経営者の配偶者やお子さまを含む4親等内の親族が裁判所に対して申し立てすることで可能となります。そのため、親族を説得する必要が出てきます。

そうして代表権を移したとしても、今度は後任の役員を選任する際の問題が出てきます。多くの中小企業の場合、株の大部分は社長が握っている、というのが一般的なので、仮に後見人が選任されると同社の株の株主としての権利は後見人が行使することになります。このような場合においては、後見人に選任されるのは、司法書士や弁護士が一般的ではありますが、「家族がその任を担ったほうがいい」と、判断される場合もあります。

他方、既存の役員から代表を選任して会社を立て直すよう努力する、となっても、また別の問題が出てきます。これは法的なこと以前の話ですが、中小企業の場合、「そのひと個人の魅力や技能があったから事業を継続できていた」というような面も多分にあると思います。だとすると、代表を変えることでかえって立ち行かなくなってしまう、ということもあるかもしれません。

これに対策するなら、やはり後見制度を活用する以前に、「なるべく早く後継者を育てておく」というのがベストだと言えそうです。長期的に考えると、中小企業経営者の立場上の責務とも考えられるのではないでしょうか。

慎重に判断したい後見制度、家族信託の活用

――先ほど、後見制度では、4親等内の親族であれば裁判所に対して後見の申し立てができる、と聞きました。では、それによってどのような変化が訪れるのでしょうか?

佐久間先生:
後見制度をひと言で言い表すなら、「意思能力が明らかに低下していたり、財産管理や契約行為が難しいひとのために、そのひとの財産管理人や契約を代行する代理人を裁判所に選んでもらう」という制度です。「認知症になったら後見制度を利用しなくては」と思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。たとえ重度の認知症であっても、生活上、後見人をつける必要がなければ、この制度を利用する機会はないでしょう。しかし、制度の骨格を知っておけば、何かのときに役立つかもしれません。

後見制度には大きく2つ、「任意後見」と「法定後見」があります。

任意後見制度は、ご自身がもしものときのために自分の後見人になって欲しい人をあらかじめ選んでおく際に活用する制度です。任意後見人には資格等はなく、親族のほか、知人や法人も指定しておくことが可能です。指定する後見人や、どのようなことをしてほしいのかについて明確に定め、公正証書で任意後見契約書を結んでおきます。そして、認知症などのため、意思能力が明らかに低下してきたり、財産管理や契約行為が難しくなってきたら効力が発生することになります。

法定後見は、法律で定められたもので、現在は「後見制度」と言えばこちらのことを意味します。法定後見の中に「後見」「保佐」「補助」の3つの類型があり、判断能力の度合いやご本人の事情に応じて後見人が果たす役割が決まります。

「後見」が担う役割は非常に幅広く、財産管理全般や契約まで代行できます。後見人になることが決まれば、被後見人がそれまで持っていた銀行口座の名義を変更するなど、まさに本人を代理する立場になります。

「保佐」は、たとえば高価な不動産を売買するなど、重要な契約を結ぶ際に本人の何かしらの行為を同意してあげたり、ある特定の行為だけについてはご本人の代理人として立つ場合もあります。

「補助」は、本人の意思を尊重して同意するかどうか、という判断を示したり、保佐と同様に、ある特定の行為だけについてはご本人の代理人として立つ場合もあります。

どの類型でも、裁判所からは定期的な報告を求められます。だいたい1年に1回程度、決まった時期にご本人の財産状況や一年間どんなことをやったか、といったことを報告することになります。また、ご本人の状況に応じて、「保佐」から「後見」への変更などの類型の変更が検討される場合もあります。その際は必ず医師の診断書が必要になり、最終的に裁判所が審判を下すことになります。

他方、まだ日本では馴染みがない方法かもしれませんが「家族信託」という制度を利用することも選択肢に入れられるかもしれません。信託は、委託者と受託者、そして受益者の三者による契約で、家族信託の場合、一般的には委託者=受益者になることが多いとされます。

たとえば、まだ委託者が元気なうちに、家族のうちだれかに財産の管理を託して委ねる、つまり受託者として管理してもらうよう契約を交わすとします。このとき、信託する内容は、財産全部でも、ある特定の財産だけを依頼することも可能です。よく聞くケースは、不動産のような管理が難しい資産の管理を信託するというものです。

信託契約時は特に問題なくても、その後、委託者が認知症になったとしましょう。それでも、管理を委託された側(受託者)のやるべきことは委託された資産の管理と受益者の利益を守ることであり、契約の内容は変わりません。委託者兼受益者の資産は守られるよう誠実に努力が続けられることになります。なお、誤解しがちですが、もし委託者兼受益者が亡くなった場合、受益権(受益者が得られる権利)が受託者に移るわけではありません。

法定後見の場合、忘れてはならないのが「子や孫への贈与ができなくなる」といった制限や「法定後見人への報酬が発生する」などの費用面の問題です。もし後見制度を利用する場面に直面したら、できることやできなくなることも踏まえて、検討することが大事です。また、家族信託の場合は最終的に受益権をどのように扱うか、あらかじめ定めておくことで相続問題等を回避するよう準備しておくと良いでしょう。

加えて、いずれの場合でも、大切な資産の管理を任せる以上、相手の人柄や人格をしっかり見極めることも大切です。それぞれ、権限や責務が大きいため、本当に信頼でき、周囲も納得するような人選であることが求められます。

経営者の認知症によるあらゆるリスクを避けるために

冒頭でも述べた通り、我が国で認知症と診断されるひとの数は年々増加傾向にあります。身近になりつつある認知症ですが、過度に恐れる必要はなく、軽度や中程度なら周囲のサポートや歩み寄り、理解があれば十分に日常生活を過ごすことができます。

一方で、中小企業の経営者のように、自分や家族だけでなく、従業員とその家族の人生にも影響を与える立場なら、現在担っている実務を踏まえた上でのサポートが必要になると想像できます。年齢や認知症の有無に関わらず、経営者はその重責を自認し、いつでも「もしものことが起こったら」に備える必要があるでしょう。

経営者も「理想の将来」に向かうための“道しるべ”を作ろう

人生100年時代において、自分に合った老後資金の計画や、いきいきとした生活を続けるための健康維持、大切な資産を守り引き継ぐための取り組みは、早いうちから向き合いたい課題です。

さらに、経営者のみなさんの場合、「もしも自分が認知症やほかの大きな病気になったとき、自社の経営をどうするのか」ということにも考えを巡らせ、場合によっては、家族信託や後見制度に関する情報を調べたり、専門家に相談するなどの準備も欠かせないでしょう。

ただ、今回ご紹介したような公的制度のほか、公的介護保険制度や相続のことは、とっつきにくく感じるテーマでもあります。加えて、昨今話題になっている「本当に、自分にとって必要な老後資金」については、参考になりそうな情報がたくさんありすぎて、逆に混乱してしまうこともあるかもしれません。

しかし、一番大切なことはとてもシンプルです。それは、あなた自身が「どんなの生活が理想的か?ゆとりを感じ、充実感を覚えるか」を基準に将来を思い描き、ライフプランを立てることです。そうしてできたライフプランは、不確実な社会の中でも揺るぎない人生の道しるべとなるでしょう。

アクサ生命は、そんな一人ひとりの道しるべを作るライフマネジメント®を通じて、不安に感じる気持ちを取り除き、より望ましい人生を歩くお手伝いをしていきます。

協力:佐久間 寛
ライト・アドバイザーズ司法書士事務所 司法書士

監修:東北大学特任教授 村田 裕之
1987年東北大学大学院工学研究科修了。仏国立ポンゼショセ工科大学院国際経営学科修了。
日本総合研究所などを経て2002年村田アソシエイツ代表に就任。現在スマート・エイジング学際重点研究センター企画開発部門長。

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