ESGやSDGsは中小企業のビジネスにも影響大!その理由と2030年に向けた注目点とは?

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このところ、経済ニュースを中心に「機関投資家や個人株主までも、投資先を選ぶ際、企業のESG取り組み度合いが高いか低いか注目するようになってきた」、「持続的な社会の実現に向けて、企業のSDGsへの取り組みが加速している」などという話題がよく聞かれるようになりました。

また、ウミガメの鼻にストローが刺さっている、という衝撃的なニュースをきっかけに、大手カフェチェーン店などが相次いで「脱ストロー」や「脱プラスチック」に取り組み始めた、といったニュースも盛り上がりを見せています。

こうしたニュースに関連してESGやSDGsという言葉を知った、というひとも多いことでしょう。社会的な関心の高まりが加速しているESGやSDGsですが、一方で「自分の会社や事業に直接の関連があるのか分からない」と思っているひとも少なくないかもしれません。

しかし、多くの経済活動が複雑に構築されたサプライチェーンの上で成り立っている今日、どのような規模の企業であろうとも、ESGやSDGsに端を発するビジネス環境の変化から、おおいに影響を受けると予想できます。
後ほど詳しくお伝えしますが、たとえば、プラスチック製ストローの代替品を提供するとしましょう。そうなれば、実際にこれを製造する企業は顧客の要望を満たすため、技術革新をしなければ立ち行かなくなります。また、製造過程で新たなルールが定められたら、それに応じるべく工夫したり、場合によっては工場の機能をアップグレードする、といった必要に迫られるかも知れません。

このように考えると、ESGやSDGsに端を発する変化から直接的かつ大きく影響を受けるのは、むしろ中小企業の方だと言えるのではないでしょうか?
そこで、本稿ではこの2つのキーワードの意味や誕生した背景などを把握しつつ、今後起こり得る変化に対してどう心構えをしていくといいか、考えてみたいと思います。

企業価値を測るあらたな指標としてのESG

ESGとSDGsの2つは同じ文脈で語られることが多く、混同しがちですが異なるものです。
まず、ESGについて説明していきましょう。

環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字をとった言葉であるESG。投資先を選択する際に企業の価値を評価する材料のひとつとして、近年注目されるようになりました。

元来、投資対象を選んだり評価したりする際は、キャッシュフローや利益率といった数値で表せる情報をもとに作られた財務諸表を判断材料にして行なわれてきました。しかし、「その情報だけで判断するのは難しいのではないか?」との考え方が、近年出てきました。

たとえば、どれだけ業績がよくても経営陣や企業の不祥事が多ければ、企業にマイナスイメージが付いてしまい、中長期的には企業の価値が下がることもあるでしょう。
また、信頼されてきた企業が社会的に受け入れがたい振る舞いをしていたことが発覚したら、消費者が企業にネガティブな印象を持ち、購買や利用を避けるようになっていくかもしれません。それが原因となり、ゆくゆくは売り上げが下がって企業の価値も落ちていくことも考えられます。

当然ながら、これらの情報は財務情報(財務諸表)では見えてこないもの。そこで、非財務情報、つまり企業のガバナンス体制のあり方や社会的責任をどう果たしているか、といったことを投資判断に加味するようになってきました。ここで象徴的に用いられたのが、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)です。

ESGが具体的に示す内容はさまざまで、「E(環境)」として地球温暖化対策や水資源保全、廃棄物管理や高効率なエネルギー利用を挙げる場合もあります。「S(社会)」は女性活躍の推進や人権保護、従業員の健康や安全への配慮や地域社会との連携、といった要素を重視するケースが多いようです。「G(ガバナンス)」は、経営の透明性や取締役の構成の多様性、コンプライアンス遵守、といったことが挙げられます。

投資家は「ESGの指標が高ければ企業価値も高まるため、投資対象として価値がある」または、「ESGへの取り組みが正しく行われていれば、企業価値が下がる可能性は低い」との判断を加味して投資対象に決定し、また企業は「投資家の意向に応えるため」お互いがこれに取り組んでいる、というわけです。

ただ、伝統的な投資手法と違い、いわゆるESG投資はまだ実践されてからの年数も浅く、数値では推し量れない価値や成果を判断することになるなど、手探りで進んでいる部分も多いものです。加えて、投資家が企業に「本当にESGに取り組んでいるか」を対話して確認(エンゲージメント)する必要もあるなど、これまでのやり方との違いに戸惑う投資家も少なくないようで、これをスタンダードな投資手法とするために試行錯誤が続けられている段階です。

2030年までに達成したい17のゴールを示したSDGs


次に、SDGsです。
こちらも、英語の「Sustainable Development Goals」の略語で「エスディージーズ」と読みます。日本語では「持続可能な開発目標」と記されることもあります。最近よく耳にする言葉ですが、実はその発端は2000年から2001年に示された「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)」までさかのぼります。

2000年9月に開催された国連ミレニアム・サミットで採択された「国連ミレニアム宣言」をベースとしたMDGsは、「2015年までに、極度の貧困と飢餓の撲滅など8つの目標を解決しよう」と取り決められた国際的なアクションです。

MDGsの発想自体は評価されるべきである一方、多くの部分で“やり残し”が生じてしまいました。その原因のひとつには、「主に発展途上国がアクションの主役で、先進各国は目標達成のサポート役」という傾向があったとも考えられます。

そこで、「地球上のだれ一人として取り残さない(leave no one behind)」を合言葉に、すべての国や企業、個人が達成に向けて一丸となって取り組もう、との意志を強く打ち出したのが、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」、つまりSDGsです。

企業がこれに取り組む際には、自社の事業を取り巻くさまざまな事柄の中から「2030年までに世界で達成すべき17のゴール・169のターゲットのうちどの項目が最も自社のビジネスに関わるものか」を見極め、定めた目標を達成するためのマイルストーンを策定し、それを実践していく、という段階を踏むことになります。

ここで重要なのは、自社のビジネスですでに行なっている活動やCSR活動を示して「私たちはこの項目に貢献している」と考えるのではなく、「自社のビジネスがSDGs達成に対してどのように負荷をかけるおそれがあって、それをどう解決していくか?」を具体的に考えることです。もちろん、それが達成できているかどうか、検証して示す必要もあります。

大企業はこんなふうに動いている〜SDGsの達成のための取り組み例

では、今日の企業はどのようにSDGsの達成に向けて、持続可能な社会の実現に向けての取り組みを実践しているのでしょうか?
いくつか注目の動きを見てみましょう。

この分野で最も先進的な企業のひとつであるユニリーバでは、2010年の段階で「2020年までに廃棄物を半減する」という目標をグローバルで掲げ、2018年末までに世界全体で製造工程からの廃棄物を97%、パッケージの重量を約18%削減したそうです。また、海洋に流入するリスクのあるプラスチック製のスクラブビーズを、2014年末までに世界中の製品から完全に撤廃。さらに2017年1月には、2025年までに「プラスチック・パッケージを100%再利用可能、リサイクル可能、堆肥化可能にする」「使用するプラスチックの少なくとも25%を再生プラスチックに切り替える」と宣言しました。

《参考》ユニリーバ:プラスチックへの取り組み
 

サントリーは、今年5月末に「2030年までにグローバルで使用する全ペットボトルの100%サステナブル化を目指す」との「プラスチック基本方針」策定。中期目標として、2025年までに国内清涼飲料事業における全ペットボトル重量の半数以上に再生ペット素材を使用していく、と目標を掲げています。

《参考》サントリーグループ:「プラスチック基本方針」策定
 

使い捨てプラスチック製ストローについてはさまざまな飲食業で取り組みが行なわれていますが、口火を切ったのは、株式会社すかいらーくホールディングスです。2018年8月、グループ全体で2020年までに順次、ストローを廃止することを発表。その第一段階として、ガスト全店でドリンクバー利用者からの要望に応じてバイオマスストローを提供しています。

《参考》すかいらーくグループ:プラスチック製ストローの廃止
 

金融機関も企業のESGへの取り組みを後押ししている

先に述べたような私たちの生活に身近な企業だけでなく、金融機関でもESGやSDGsを重視する取り組みは広がっています。というのも、金融業界は投融資によって企業の経済活動を推進する存在でもあるため、責任が極めて大きいからです。この考え方は、2006年に国連事務総長であったコフィー・A・アナン氏によって提言された「国連責任投資原則(PRI)」に端を発し、いまや投資家の行動規範となっています。

では、具体的にはどのような行動がなされているのでしょうか?
たとえば、世界的に問題視されている気候変動への対策として、電源の中で二酸化炭素(CO2)排出量が最も多く、環境負荷が大きいとされる石炭火力発電への新たな投融資を取りやめる例は多く、日本でもメガバンクを筆頭に「原則取り組まない」と宣言するようになってきています。

加えて、製造物などそのものだけでなく、製造過程の脱炭素達成へのプレッシャーも高まっています。たとえば、現在ESGに関して積極的な欧州では、欧州委員会でサステナブルファイナンス行動計画のフレームワーク作りを進めるTEGという技術専門家グループを立ち上げ、「二酸化炭素排出量について、製品のライフサイクル全体で注意して見てみよう」という議論をしているようです。

この議論の背景には、たとえエコや低炭素製品として販売されていても、それが製品として世に出るまでの間に大量の二酸化炭素を排出しているようであれば、持続可能な取り組みとは言えないのではないか?という問題意識が見て取れます。

では、中小企業にはどのような影響があるの?

ここまで示した通り、大手企業は積極的に製品やサービスをSDGsに則った形になるよう変化を遂げ、ESGへの取り組みを強化しています。しかし一方で、プラスチック製品を削減するにしても、二酸化炭素排出量を削減しつつ安定的に電力を供給するにしても、実現可能な代替案を見出さなければなりません。

本記事の冒頭でも少しお伝えしましたが、大企業はサプライチェーン上にある調達先に、仕様変更を依頼してきたり、新たな開発を依頼する、という動きを活発化させているようです。この動きが進めば、変化に対応できない調達先を見直す、という動きにつながっていく場合も予想できるでしょう。

たとえば、製造時の二酸化炭素排出量についてもモニタリングされるようになれば、企業がサプライチェーン全体で製造ラインのスペックの見直しや新たな設備投資を検討しなくてはいけない場面が出てくることは容易に想像できます。こうしたことから、大企業から依頼を受けて活動する中小の関係会社や協力会社も大企業同様に技術革新や進化を求められている、と言えそうです。

加えて、特に外資系企業は、労働者の安全や安心に向けた働きかけ、反児童労働、反労働搾取に熱心であるため、契約書のまきなおしを依頼してくる場合もあるかもしれません。それに伴い、労働環境や条件の改善等を完遂するよう働きかけられる可能性もあります。この背景には、英国の「現代奴隷法」のような関連法規の存在ほか、サプライチェーンにおける人権侵害の防止にコミットする動きが挙げられます。

このようなことから、大手企業の動きに合わせて事業内容や提供する製品・サービスを変更させたり新たな取引を始めたりする可能性が、中小企業には生じる、というわけです。

持続可能であるか?が、今後のビジネスのキーワードになる

ESG(ESG投資)、SDGsへの取り組みは、大企業や政府だけががんばるものではありません。社会が持続可能な環境であり続けるための取り組みは、社会を構成するすべてのひとに関わることだからです。

他方、中小企業の経営者としての視点で見ると、自社が何を目標として定め、どう改善・変化し、実行していくかを考えることは、新たなビジネスチャンスを見出したり、持続可能な経営の芽を育てるきっかけになるかもしれません。チャレンジングなことではありますが、この機会を活かす価値は大きいと言えそうです。

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