中村紀子さんと人生100年時代~安渕の未来ダイアログ 第8回

#お金 #安渕の未来ダイアログ #人生100年 #インタビュー #健康 #ライフスタイル

「人生100年時代」だけでなく、昨今は「コロナ禍、アフターコロナ」や「SDGs(持続可能な開発目標)」といった重要なトピックが世の中を賑わせています。こうした変化を積極的に受け入れようという機運がある一方、「どれもつかみどころがなく、自分ごとに感じられない。自分と社会の間に距離を感じてしまう」と、モヤモヤした気持ちを抱える向きも少なくありません。

そこで、第8回『安渕の未来ダイアログ』では、「働く女性を支える」をミッションに掲げ、ベビーシッターサービスの提供や全国各地での保育所・教育施設の運営、介護事業などを手掛けるポピンズホールディングスを率い、2020年12月には日本初のSDGs上場を果たした中村紀子さんを迎え、女性達への力強いメッセージや、今だからこそ見直したい幼児教育のあり方、ダイバーシティやSDGsの重要性について語り合いました。

※写真撮影時のみマスクを外しております

人生100年時代を生きる女性たちへの問いかけ

安渕:数年来、日本企業は「女性活躍推進」を掲げ、女性役員の比率を2030年までに30%に押し上げようと取り組んでいます。そんな中で、「働く女性を支える」を前面に掲げるポピンズの中村さんとはぜひ対談したいと考えていました。

まず、中村さんが人生100年時代というキーワードを聞いて、連想することは何でしょうか?

中村さん:私は「人生100年時代」という言葉を聞くと、女性の雇用のあり方や働き方について考えずにはいられません。

例えば、ポピンズに所属するナニーさんやベビーシッターさんのおよそ8割はいわゆる専業主婦としての役割がメインで、おもな納税者である夫の配偶者が受ける控除「配偶者控除」の枠内で働いておられます。そうした背景から、控除の上限が近づく10月から11月あたりになると、“働き控え”をする方も出てきます。

こうした働き方もひとつの選択肢かもしれませんが、私は、彼女達のようなこれから人生100年時代を生きる女性達に、「本当にそれでいいのですか?そろそろもう一度、自分の働きたい形で働きませんか?」と問いかけたいのです。そして、毎月どのくらい働けば扶養控除の壁を突き破って、「自分も税金を払うことにはなるけれど、扶養控除の中で働くよりもプラスになるか」を考えるきっかけを作る活動をしています。

この考え方の背景には、現状の日本社会に対する問題意識があります。国の財政、特に社会保障の分野は、「この先、立ち行かなくなるのではないか?」と言われるほどの状態になっているのは周知の通りです。だから私は、「国におんぶにだっこのままではいけない。自立して、自分の未来は自分で守れるようにしませんか?」と、申し上げているのです。

安渕:厳しいながらも鋭い問題意識ですね。中村さんにとって「自立」が非常に重要なキーワードなのだと伝わってきます。

未来を創る子ども達にできることを

安渕:では次にポピンズで取り組まれている興味深い活動について、特に、エデュケーション(教育)とケア(保育)を組み合わせた「エデュケア」という造語を用いて保育のあり方を示しておられる点について聞かせてください。この言葉には、子ども達が将来において自立していくことをサポートする、という強い意思が込められているのだと感じています。

中村さん:おっしゃる通りです。ポピンズでは、米・ハーバード大学と「子ども達への教育」について共同研究を続けており、2021年でもう15年になります。年に一度、研究成果を発表していて、今年はオンライン形式でシンポジウムを開催し、6年がかりで取り組んできた「ダイバーシティ」の集大成を多くの方々にお伝えしました。

そして、次のテーマに据えたのが「子どものためのSDGs」です。未来を創る子ども達に、「SDGsとは何なのか?」を伝え、さらに、「自分の身近な場所から世界で起こっていることに関心をもち、できることを行動に移すことが大切である。」ということを知ってもらいたいと願っています。

同時に、そうなるためには、子ども達を支え導く立場の幼稚園の教諭や保育園の保育士のみなさんをはじめ、学校の先生達の学び方を整理し、どう伝えてもらうかを考えることも必要です。今後はこの領域を研究していこうとしています。

子ども達がSDGsに触れれば、家庭にもSDGsが広がる

安渕:幼児教育が重要なのは、子ども達の声が家庭に持ち込まれれば大人達も変わる、というところにもあると思います。先ほど出てきた「インクルージョン&ダイバーシティ」も同様ですね。

例えば、「インクルージョン&ダイバーシティ」のトピックでもある女性活躍についても、男性経営者でお嬢さんがいらっしゃる場合、「あなたの会社に今、お嬢さんを入社させたいですか?」と問いかけると、答えが否定的であることに自ら驚かれたり、それをきっかけに問題点を自分ごととして認識されたりなど、考え方が変わるケースがあります。

では、具体的に子ども達にどう「ダイバーシティ」や「SDGs」を伝えていけばいいでしょうか?

中村さん:先ほどハーバード大と共同研究をしていると申し上げましたが、今まさにポピンズで行なっている取り組みとして、子ども達に対し物を大切にする意識を育むきっかけづくりをしています。

例えば、花屋さんで廃棄処分になってしまうけれどまだまだキレイなお花を花束にして、お迎えに来てくれた親御さんにプレゼントする、というステキなアクションを行なった施設もありました。このほか、各地の施設長が主導して、「自分の施設ではSDGsの中でどのトピックを取り上げて1年間、子ども達と一緒に勉強していくか」を決めています。自ら行動を起こす、ということがもの凄く大切ですからね。

安渕:子ども達に世界へ目を向けるきっかけをもたらせば、何が起こっているか理解しようとしますし、困っていることを見つけたらとても素直な気持ちで助けてあげようともします。私がその例として思い浮かべるのは、東日本大震災の時に国内外の子ども達からも義援金が寄せられたことです。

中村さん:そうですね。いま、私達は「愛から行動へ」という言葉を掲げています。愛情を持って子どもと接するのは当然ですが、それだけではなく、愛を感じたならそれを行動に移すことが社会的に重要で、その点を子ども達にも教えたいーー、そのためにまずは保育士さん達が『愛から行動へ』を実践する必要があると考えています。

今の子ども達にとって、これからの舞台は日本だけでなく地球上すべてになります。どこで生きていくにしても、自分の二本足できちっと立って生活をするためには、国籍や年齢、性差、宗教の違いをも超えて、相手の価値観を理解して受け入れる必要があるでしょう。

相手を知らないうちから好き嫌いをするのではなく、まずは相手を理解できる心を養わないと、偏ったギスギスした世界になってしまうのでは?と思うのです。

働く女性を支援し日本初のSDGs上場に至るまで

安渕:ダイバーシティとSDGsの関係、幼児教育によるインパクトと、非常に意味深い話が続きました。そこで、お伺いしたいのがSDGs上場についてです。ポピンズがSDGs上場を目指したきっかけやそこに込めた想いとは、どのようなものだったのでしょうか?

中村さん:私は、1985年に「日本女性エグゼクティブ協会(JAFE)」を設立し、その後1987年にポピンズを起業いたしました。

当時の私はアナウンサーとして働きながら子育てをしていたのですが、日々感じる葛藤の中で、「幼い子どもや病気の家族と離れて働いたり、家事が疎かになってしまったりと、どこか心を痛めながらも前を向いて働く女性は自分以外にもたくさんいるのではないか」と考え始めたのです。ですから、ポピンズは「働く女性を支援する」というミッションを掲げた、というわけです。

ところが、それから34年が過ぎても社会は余り変わっておらず、「働く女性を支援する」というミッションは同じです。働く女性達が働き続ける上で未だに社会的な課題があるのなら、やっと公の舞台でその使命を果たす時期が来た、と考えるようになりました。それはまさにSDGsに繋がることですし、経営ミッションの真ん中にSDGsがあると自負しています。

昔は、「中村さん、アナウンサーしていればいいのにどうして保育やベビーシッターのサービスをやっているの?」なんて言われもしましたが、働く女性がこれだけ世の中に出てきて、彼女たちを支援するサービスも増え始めています。しかし、本当は政府がやるべきことだけれど十分ではない部分もあります。それならば、我々は一歩前に出て社会的な解決をする、と。その動きに時代もついてきてくれているのなら、「ここで上場をして、公の舞台で自分達の使命を果たしていこう!」というふうに考えました。これがIPOの理由です。

安渕:そもそもSDGsとは、2030年までに達成すべき具体的な目標ですが、その中でも5つ目の「ジェンダー平等を実現しよう」は日本において重要な意味を持ちます。中村さんはまさにそれを達成するために1985年から取り組まれていたわけですが、日本の働く女性の環境は変わってきたと思われますか?

中村さん:私が1985年に立ち上げたJAFEは全国初の女性管理職の協会ですが、設立当初に比べると、もの凄く違ってきたと感じます。というのも、会員を募集し始めた頃は女性管理職といっても係長や課長レベルがほとんど。東証一部上場企業のうち、女性の重役は高島屋の元常務取締役である石原一子氏だけ、というような時代でした。官公庁でも同じで、当時の通産省や厚生省に課長レベルの方がいるくらいでしたね。

それがなんと、今のメンバーの大半が執行役員や取締役といった役職に就いています。

また、設立当初のアンケート調査によると、メンバーの65%が独身でした。男性と同じように仕事をしなければ認められないから、結婚や子どもを持つことを諦めてキャリアを積む、という時代だったわけです。その結果を見て、当時の私は「これでいいの?これからはそういう時代じゃないはず!」と思ったものです。

ですから、「女性だったとしても、管理職を目指せるし、結婚も子どもも諦めないのが当たり前」という状態を目指し、それを応援するサービスを提供する会社として1987年にポピンズを設立しました。

私は、ひとつの想いや志を持って頑張る女性達がこれまでよりももうちょっと楽に成功できるようになれば、と思いますし、そのお手伝いをできたらと考えています。

安渕:なるほど。そうした中村さんの志が大きなカタチになったこととして挙げられるのが、2017年に開催された「世界女性サミット」ですね。JAFE代表として東京大会実行委員長を務め、各国から集う多くの女性エグゼクティブ達をもてなしたと伺っています。

中村さん:もう、笑っちゃうくらい楽しくて大変でしたよ!

世界62ヶ国、1,600名のエグゼクティブがお越しになったのですが、彼女らへおもてなしをするために“普通じゃないこと”をしたいと考えて企画をしました。まず、東京証券取引所に出向き、上場した企業が取引初日に鳴らす鐘を、「この鐘を叩くのは、これからは女性である私達である」との想いを込めて打鐘するセレモニーを行ないました。全プログラムは高輪プリンスホテルを会場にし、レセプションは迎賓館をお借りして行なうなど、初めて尽くしの3日間でしたね。

安渕:それは相当、参加された方々の刺激になったでしょうね。

中村さん:おっしゃる通りです。「今回はオールジャパンでやりましょう!」と、思いつく限りのトップレベルの女性エグゼクティブ達に声をかけました。女性の経済的機会拡大やグローバルメガトレンドといった重要なトピックをテーマに女性エグゼクティブ達と政財界の要人が議論を交わすプログラムだけでなく、迎賓館のお庭を貸し切って行なったお茶会や和太鼓奏者達のパフォーマンス、東京スカイツリーの照明も手がけた戸恒浩人氏による初の迎賓館ライトアップなど、エキサイティングなひと時でした。

学び続けることは止められない

安渕:お話を伺っていると、JAFEやポピンズの設立、ハーバード大との共同研究など、中村さんにとって学び続けることは非常に大きなテーマになっているように感じます。

中村さん:そうです。世の中には私の知らないことがまだたくさんあり、まだ知らない素晴らしい人がいっぱいいます。そうした物事、人物との出会いは刺激的ですよね。

私は、情報とは食べ物と同じだと思っています。不要であれば食べなければいいし、必要なものは自分の栄養として血肉にしていけばいい、ということです。ただ私は、「これで限界。もういらない」という気持ちになったことは一度もありません。

安渕:そんな中村さんからご覧になって、「このひとは人生100年時代を楽しんでいるな」と感じる人物はいらっしゃいますか?

中村さん:小説家であり尼僧でもある瀬戸内寂聴さんは、まさにそうしたひとではないでしょうか?講和をして人々を元気付けて、ご自身も健やかでいる、といういい生き方をされていると思います。

もうひとりは、米国の絵本画家で園芸家でもあるターシャ・テューダー氏が思い浮かびます。彼女はいくつかの言葉を残していますが、その中でも「90歳で今が一番幸せ」という言葉に触れた時、「90歳で今が一番幸せって言える人生とは何か?」と考えるきっかけになりました。結局は、これも彼女の言葉ですが、「自分の思う通りに歩めばいいのよ」ということなのだとも思います。

どの時代、どの年齢であったとしても、「今が一番幸せで、翌年になったらまた『今が一番幸せだわ』」と言えること。それを繰り返すことができる私は、本当に恵まれていると思っています。そういう環境を続けるには、やはり自分自身が死ぬまで勉強しないとダメですよね。自分が常に前に進んでいて、発言や行動、存在感で周囲に感動を与え、私と話すことで「エキサイティングだ!」と感じてもらえるようにしなければ、と思っています。

ただ、この世の中には知らないことが多すぎるのも事実です。ですから、まずは自分の関心があることだけでいいのだと思います。世の中のすべてに対して知識を持っていなくてもよくて、自分が好きなことを常に知ろうとする姿勢と行動がステキな人生を送ることに繋がるのではないでしょうか。

安渕:学び続けることは元気に生きていくこと、ということですね。どんどん新しいものや興味関心が向くものに触れていくことは大切だと感じます。

中村さん:そうですね。もともと好奇心はすごく旺盛なタイプなんですよ。ただ、最近は「自分が興味のあることとないこと」がハッキリしてきたようにも思います。興味関心は「T」の字のように、広く浅く、そして1つに集中して、と言いますが、私は「T」の横棒が短くなってきたのかもしれません。それよりも「自分の使命はここだ!知るべきことはここだ!」というところにバーッと飛び込んでいくようなイメージです。

子育てから事業承継へ~人生最良のお金のつかい方~

安渕:ここまで、「働く女性を支える」ということや、幼児教育の重要性、学びの大切さについていろいろと伺ってきましたが、中村さんがおひとりで築いた事業をその子どもが引き継ぐ、ということについても伺ってみたいと思います。ご承知の通り、今は多くの中小企業や小規模事業で「事業承継」が課題になっています。

中村さん:まず、私が今までで一番上手なお金のつかい方をしたな、と思うことをひとつ挙げると、それは娘の麻衣子を留学させたことです。「お金があったからできたことだ」と思われるかもしれませんが、実はそういうわけではありません。日本に住んで、学費やお稽古ごとの月謝を払い、塾にも通わせて、洋服を着させて、食事も十分なものを毎日用意して、と考えると、海外に留学させるのとそう変わりはないどころか、留学の方が“安い”と言えるほどだったのです。

留学先はイギリスを選びましたが、私はなにより、このことで彼女にバイリンガルという教育とダイバーシティ、グローバルな感覚という無形の資産を渡せたと考えています。あの25年間は、一番いいお金のつかい方だったと今でも思っています。

安渕:そうして帰国した麻衣子さんに対してサクセッションプラン(後継者育成計画)を立て、事業を繋いでいき、2018年4月には代表取締役社長にされた、とのことですが、どの段階から後継者にすることを意識されていたのでしょうか?

中村さん:私は、彼女が自分の会社を引き継いでくれるだなんてゆめゆめ思っていませんでした。彼女は彼女の好きなことをするべきだし、「跡取りになりなさい」なんて一切言いませんでした。しかし、MBAを取得する過程で、私のこれまでの取り組みをケーススタディにすることがあり、そこで考えが変わったようです。

帰国すると言い始め、「私は社長の器かどうかわからないけれど、お母さんが30年間やってきたことを自分がまったく関与せずに他人に渡すのではなく、私も一度チャレンジしたい」と言ってくれたのです。

しかし、ポピンズは私がゼロから作った組織で、6,000名近いスタッフ達はすべて私が採用してきました。それなのに、ある日いきなり「このひとが次の社長だから」と言っても上手くいきませんよね。ですから、5年間のサクセッションプランを作り、徐々に事業を承継させました。様子を見ていると「計画を前倒ししてもいいかな」と感じる場面が増えてきています。

安渕:企業はどこもサクセッションプランを作って次の経営者にバトンタッチしようとしますが、難しい部分は少なくありません。さらにコロナ禍のような異常事態には、そのひとの真価が見えることも多々あります。しかし、5年かけて、というのはすごいですね。

中村さん:親子なので、彼女の性格を一番知った上で計画を進めることができる、という面もあるのかもしれません。25年の留学期間中も休暇には一緒に世界中を飛び回り、そして、折に触れて「あなたはまず日本人であることを忘れてはいけない。美しい日本語、正しい日本語を話せるようにしなさい」と言って、ものすごく厳しく訓練もしてきました。

そういったことはやはり親の責任だと考えています。外の世界に出したとしても、親が管理すべきところはしっかりと管理する、と。今では私よりボキャブラリーが豊富ですし、しかも半端なく自立して「自分」というものを持っています。

それは経営者としてはいいことなのでしょうが、ひとたび親子の関係に戻ると「また理屈を言うわね!ああ言えばこう言うんだから!」と思うこともあります。しかし、自分の意見を持ってないとダメになるから、しょうがないですね。(笑)

自分にとっての“足る”を知らなければ、今ある幸せに気付けない

安渕:最後に、中村さんにとってお金とはどのようなものでしょうか?また、先ほど「私は本当に恵まれている」とおっしゃっていましたが、自分にとっての「幸せ」に気付くためのコツはありますか?

中村さん:私にとってお金とは不思議な存在です。今でこそ会社は上場もしましたが、最初は自分のお給料も得られないような状態から始まりました。それが5年くらいで人並みの収入になり、だんだん「これくらいほしいな」というくらいのお金を手にできるようになっていきました。

私は事業者ですので、社会の必要性を満たした企業は社会への貢献度に合わせてお金が得られる、と思っています。そういう意味で、私が「このくらいほしい」と思うだけのお金を得られるようになった時は、「私達の仕事が社会に貢献していることを社会に認めてもらえたのかな」と感じたものです。

お金は、いくら手にしても不幸せだと感じるひともいれば、お金を得ることが最終目標だ、と考えるひともいます。しかし、私はこれは間違っていると思うし、「我ただ足るを知る(吾唯知足)」という言葉を噛み締める必要があるのかな、と考えています。

自分にとっての“足る”を知らなければ、せっかく素晴らしい家族に恵まれていても、お金が十分に足りていても、幸せを感じられないのではないでしょうか。自分にとっての“足る”がどのような状態か、その価値観は画一的なものではないでしょう。しかし、少なくとも、お金というのは幸せの中のひとつであってすべてではないはずです。

画一的ではない価値観があると気付くには、やはり、どのように大人が子ども達に気付きのきっかけをもたらすか、真剣に話し合わなければならないと考えています。世界サミットのテーマとして、今起きている世界の政治や経済のことばかりではなく、「差別偏見、戦争や宗教対立などを根本的になくすためには小さい頃から共通して何を知っておくべきか」ということを話してもらいたいですね。


対談を終えて

今回、人生100年時代のとらえ方をうかがったときに、中村さんが直ちにご自身の生涯ミッションである「働く女性の支援」に結びつけて、全女性の課題と受け止め、人生100年時代だからこそ、「自立して、自分の未来は自分で守れるようにしませんか」という問いかけをされたのが、とても印象的でした。自分で何をすべきかを考え、常に学び続け、新しいことにもチャレンジして、自分の手で未来を創る、という中村さんの姿勢や行動の原点が分かったような気がしました。

中村紀子さんとポピンズのことを初めて知ったのは、1998年、中村さんがハーバード・ビジネス・スクール・オブ・ジャパン(HBSCJ)から、日本社会に影響を与えた女性経営者として、ビジネスステーツウーマン・オブ・ザ・イヤーのアワードを受賞された時のことです。実は、私はHBSCJの役員として、この賞の選考委員の一人を務めていたのです。ちなみに、その時のビジネスステーツマンは、トヨタの社長の奥田碩さんでした。その後、経済同友会を通じて改めて知り合い、一度当時の会社に講演に来ていただいたこともありました。「働く女性を支援する」というブレないミッションの達成に向けて全力を注ぎ、障害物を乗り越えて、未来に向かって進んで行く人、というのが私の中村さんの印象でしたが、しばらくぶりにお会いして話してみると、日本初のSDGs上場を果たして、さらに加速しておられました。

今回は、創業者として、上場企業の経営者として、親として、さらに学び続ける個人として、といった、さまざまな中村さんに触れることが出来て、とても楽しい時間を過ごさせてもらいました。そして、私自身も、まだまだやることがいっぱいある、じっとしてはいられない、という「動」のエネルギーをたくさん頂きました。


中村紀子(写真左)
テレビ朝日アナウンサーを経て、1985年、JAFE(日本女性エグゼクティブ協会)設立、代表就任。1987年、㈱ポピンズの前身であるジャフィサービス㈱設立、代表就任。ほか、(社)全国ベビーシッター協会副会長、内閣府、厚生労働省女性の活躍推進協議会委員などを歴任。
ポピンズのベビーシッター派遣サービス誕生のきっかけのひとつは、「娘(株式会社ポピンズホールディングス 現・代表取締役社長 轟麻衣子氏)の子育てをしながらアナウンサーとして活動していた頃、ベビーシッターさんに頼らざるを得なかったけれど、条件や性格が合う方に巡り合うまでにいろいろな苦労があったから」とのこと。その経験から、「幼い子どもや病気の家族と離れて働いたり、家事が疎かになってしまったりと、どこか心を痛めながらも前を向いて働く女性の支えになりたい」との想いで起業した。
現在「株式会社ポピンズホールディングス」は、働く女性の育児・介護支援のリーディングカンパニーとして、保育・教育施設を全国326ヶ所*に広げているほか、「働く女性」のライフステージに応じた切れ目ない事業展開を行なっている。(*2021年6月末時点)

安渕聖司(写真右)
アクサ生命保険株式会社 代表取締役社長兼CEO。1979年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、三菱商事株式会社に入社。東京、仙台、ロンドン勤務を経て、90年ハーバード大経営大学院修了。99年リップルウッドの日本法人立ち上げに参画。リップルウッド・ジャパン株式会社エグゼクティヴ・ディレクター、UBS証券会社マネージングディレクター、GE コマーシャル・ファイナンス・アジア上級副社長を経て、09年GE キャピタル・ジャパン社長 兼CEO、17年ビザ・ワールドワイド・ジャパン株式会社代表取締役社長を歴任、19年より現職に就き現在に至る。兵庫県神戸市出身。

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